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選歌 令和5年1月号 

ひそやかに降り来る白き秋の風聞きつつ庭の草を取るなり
青山 良子

久に見る天の青さに吸われたる心の隅の小さき黒点
上村 理恵子

孤のつく字みな淋しいと友が言う遠き日輝く孤独ありしに
児玉 南海子

空気読むこと出来るらし餌やるなと書きたる駅に鳩来なくなり
高田 好

もて余す時間か老ら陽だまりに二人・三人また一人増す
広瀬 美智子

汗たりて草とるよりもなお辛し取れずして庭ながめいる身の
藤峰 タケ子

今宵また月を探しに街ゆけば鎌は太りて柔く光りぬ
三上 眞知子

つば広の帽子に残る汗洗えばらっせらっせ声が滴する
山口 美加代

絶え間なく戦の続くこの地球月から見れば如何なる景色
伊関 正太郎

「猪と競争ばい」と栗下げて従兄は日焼けの顔に現はる
岩本 ちずる

水面の動かぬウキを見る人の横で見ている吾も暇人
浦山 増二

気がつけば子供ら女房われもまた右手で箸を使ひて食べる
川口 六朗

煙草・酒吸われ呑まれて果てる身の納めし税の行方を知らず
木下 順造

これからは語らなかった戦後をば詠うときっぱり決意を語る
清水 素子

艱難を切り抜けるためビワマスの産卵前の固まる
渡辺 ちとせ

意地わるは長寿と聞くが本当か気に掛けまいと時折気にする
永田 賢之助

十月尽喜寿の祝いもあるという某総会に出席の返
松下 睦子

「すみません」口癖だつた頃ありき「言ふたら罰金」同僚ともの決めたる
毛呂 幸

杜に行きトトロを見たと言ひし孫帰ることなし東京に出て
臼井 良夫

幕内の土俵入りするその脇で拍子木を打つ呼出し次郎
高貝 次郎

安らけき世を全うし逝きたると八十五年の一代ひとよを偲ぶ
橋本 俊明

いささかの自負はさびしも付き来たる白き繊月空に嵌りて
渡辺 茂子

シリウスの青きシャワーを浴びたあと ドゴンの民の泥染め纏う
建部 智美

生き方の答えを探る鍋の中キャベツがくたりと煮えるまでには
山内 可奈子

甘き香の風に乗り来る散歩道 金木犀との距離を保ちぬ
仲野 京子

そう言えば見たことの無き吾が背中 検診の医師は気軽に叩く
田村 ふみ子

旅先で必ず従姉が飲んでいたクリームソーダはいつも海色
高橋 美香子

若者の事故はサラリとマスコミはそれ見た事かと高齢者の事故
成田 ヱツ子

いくさ無き七十七年かえりみて今日も引き揚げの語り部に立つ
森本 啓一

私の知らないわたしこんにちは 三十一文字の小さき涌き水
山北 悦子


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