僕は、僕だ
ちょっとバスを待つ時間があるからおしゃべりしようよ。
僕はこれまでたくさんの面白い経験をしてきたんだ。
僕は生まれつき背骨がゆがんでいて、そのせいでうまく歩けなかったんだ。
だから、脚に強制具をつけて過ごしていた。
これがすごく重いんだ。
一歩一歩が大変なんだよ?
でも母さんがいつも助けれくれたんだ。
僕は生まれてから僕の父さんを知らない。
けれど、僕には母さんがいる。
それだけで十分だったんだ。
路肩の排水溝に強制具が引っ掛かった時も母さんが一生懸命に僕を助けてくれた。
そして僕は良い小学校に通った。
僕はモノを理解するのに時間がかかるんだけど、そんな僕でも母さんは最高の教育を受けさせてくれた。
本当に感謝しているよ。
ある日、スクールバスに乗っているとひとりの天使に出会ったんだ。
その子は、はじめてスクールバスで僕に隣の席を譲ってくれたんだ。
そして、その子と話すととても時間が早く過ぎたんだ。
1日がもっともっと長かったらいいのにって思ったよ。
その子の名前はジェシー。
すごく綺麗な名前でしょ。
幼い頃の僕は喋るのもあまり得意じゃないし、脚に強制具がついてるから、いじめっ子に四六時中からかわれた。
今じゃなんとも思ってないけど、当時はキツかったな。
でもジェシーは僕をかばってくれたんだ。
ある日、ジェシーとアラバマののどかな田舎道を歩いていると、いじめっ子が自転車で追いかけてきた。
ものすごいスピードだった。
僕は本能で逃げなきゃって感じたんだ。
だから、僕は走ろうとした。
強制具のついた脚で。
もちろん、僕は歩くことさえままならない身体だったよ。
けれど身体に走れって命令すると、なぜか足が前に動いたんだ。
すると強制具が外れて、馬のように早く走ることができた。
本当だよ。
いじめっ子たちの自転車も決して追いつけないくらい速く走れたんだ。
成長した僕は、足の速さをかわれて、ある高校のアメフト部にスカウトされた。
母さんがとても喜んでくれたんだ。
アメフトというスポーツは僕の性に合っていた。
だってボールを抱えて、一番向こう側まで走り抜ければいいだけだからね。
シンプルイズベストさ。
相手選手は当然邪魔をしてくるけど、誰も僕の足にはついて来れない。
だって僕は馬のように速く走れたんだから。
高校生活が終わりそうなとき、あるおじさんが僕のところにやってきてこう言ったんだ。
「君は足が速く、体格がしっかりしている。ぜひ軍隊に入隊してみないか?」
断る理由もなかったから、僕は軍隊に入隊することにした。
母さんは少し悲しそうな顔をしたけど、胸を張って僕を送り出してくれた。
軍隊で最初に知り合ったのはバッパだった。
そして、一番仲良くなったのもバッパだった。
バッパは凄く明るいやつで、エビについて詳しいんだ。
なんでも実家の家業はエビ取りらしい。
軍隊で金を貯めて、エビ取り船を買って大儲けする。
それがバッパの野望だった。
僕もエビは大好きだったから、軍隊の次はバッパと一緒にエビ取り船に乗り込もうと思っていた。
そんなとき、アジアのどこかで戦争が起こった。
東南アジアの国に行かなきゃいけないみたいだ。
東南アジアは暑かった。
地球上でもっともたくさん太陽に当たる場所らしい。
そりゃ暑いよね。
僕は暑さでヘトヘトになりながらも、楽しく軍隊生活を送っていた。
現地に来てから、敵に遭遇したことはなかったからね。
でもある日、森の中を歩いていると大きな爆発が目の前で起こった。
敵からのゲリラ攻撃を受けてしまったんだ。
近くにいた仲間は吹き飛び、僕はなんとか被害を逃れて、意識を保つことができた。
頭も、手も、足もちゃんとついてる。
大丈夫だ。
銃弾が飛んできたので、僕は近くのものかげに伏せていた。
するとジャン中尉から撤退命令が出たんだ。
僕はものすごい勢いで走り出した。
続く