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「チップス先生、さようなら」

先日、「チップス先生、さようなら」を見た。すばらしい映画だった。

この映画は、イギリスのパブリックスクールの厳格で堅物の古典教師チッピングが、若い女性キャサリンと出会い結婚することで人間的に変わっていくさまを描いた映画である。原作は1934年にジェームズ・ヒルトンが発表した小説『Goodbye, Mr. Chips』で、1939年に初めて映画化されている。私が見たのは1969年のリメイク版で、こちらではキャサリンの職業が家庭教師から舞台女優に変わっていたり、背景にある戦争も時代に合わせて変わっていたりするが、どちらも高い評価を得ている。

1939年版を見ていないので1969年版だけの話になるが、この映画を見ていちばんよかったのは、人間というものの本質を見せてもらったような気がしたことだ。すなわち「人は愛によって変わる」ということである。それをことばではなく映像で見せてもらったと思った。チッピングは恋愛や結婚をしなくても立派な教師として人生を全うしたと思うが、キャサリンと出会い結婚したことで人間の幅が広がった。妻を守るためなら他人にどう思われようとかまわない。妻を喜ばせるためならなんでもする。他の男が妻に言いよれば我を忘れて怒り狂う。それまでのチッピングは冷静沈着だったが、愛を知ったあとの彼は人間味のある豊かな感情を発露させていくのである。

圧巻の場面が2つある。
ひとつは、キャサリンを快く思わない学校理事がチッピングとキャサリンを別れさせようと企んだとき、身を引こうとする妻をチッピングがなりふりかまわず追いかけ捜しまわるシーンだ。堅物だった彼が愛のために奔走するさまは何度見ても心が揺さぶられる。
もうひとつは、校長交代のとき、チッピングが新校長に決まりかかっていたのに、またもや意地悪な理事がそれを阻止する。「妻を校長夫人にしたかった」と肩を落とす彼は、数年後、今度は本当に校長の職に就くことになる。その朗報を一刻も早く妻に知らせたくてチッピングはまた全速力で妻の元へと走るのだ。ここも深く心に刻まれるシーンだ。

また、この映画では、主演のピーター・オトゥールのクィーンズイングリッシュがものすごくいい。DVDを購入したので、これからは音声と字幕を英語にして鑑賞したいと思っている。そして、この映画は、私が将来見るものも含めて、生涯で見た映画の中で五本の指に入る名作だと思う。


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