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朝ドラ批評家の『虎に翼』考  第17週 お待ちかね涼子様・玉ちゃんだけじゃない!寅子のサザエさん感に脱帽

こんにちは、朝ドラ批評家の半澤則吉です。
最近、会う人会う人(のうちで、朝ドラを見てそうな人)と『トラつば』の話をするのですが多くの人が絶賛していて面白いですね。本当に良いところがたくさんある作品なので、ここではその一部分を切り取り、僕なりの感想を記録していければと思っています。

ということで、まずは第17週の振り返りといきましょう。

涼子、玉の再登場、それを見守るヒロイン寅子

寅子(伊藤沙莉)は新潟の地で涼子(桜井ユキ)、玉(羽瀬川なぎ)と再会を果たしさらには花江(森田望智)の元女中、稲(田中真弓)にもお手伝いに来てもらうことに。その後、寅子は玉が自身の障害とそれを世話する涼子との関係に心を痛めていることを知り、2人が話し合いの時間を持つように提案します。2人は「親友」であると互いを認め合い寅子は2人の姿をやさしく見つめ涙します。

涼子様、玉の再登場に歓喜した人も多かったでしょう。2人の再登場には個人的にかなり期待していましたが、新潟編を彩るキャストとして復活するとは!脚本、演出の将棋のうまさに唸りました。ここでくるか!
2人の喫茶店の店名が、よね(土居志央梨)が以前働いていたカフェ『燈台』を想起させる「ライトハウス」だったこと、店の隠しメニューとして学生時代にみんなと作った毒まんじゅう(第14回)があるなど、涼子にとって「あの頃」がいかに大事な時間だったかがジワジワと滲み出てきましたね。また、なんといっても涼子と玉の英語のシーンが美しかったです。

話題となったbosom friendの引用

第84回から引いてみます。

玉:あなたなしの人生は考えられない 私の親友になってくれませんか?
涼子:あなたはもう親友ですよ、玉

日本語も素敵ですが、ここでは英語のセリフにも注目したいです。

玉:Could you be my bosom friend?

話題になっていましたがこの「bosom friend」は『赤毛のアン』の「腹心の友」だそうですね。さすが、英語を教えるほどの能力者、玉とそしてお嬢様涼子。ここで『赤毛のアン』を持ってくるとは頭良すぎだしオシャレすぎ。朝ドラファン的には『花子とアン』も絡むので加点したくなるファンタスティックなセリフでした。玉ちゃんは英語で語ることで、今まで言えなかった想いを正直に伝えられたし、それを優しく受け入れる涼子様のまた美しいこと。こんな名場面を新潟編に用意していたことに驚くし、またしても脚本家、吉田恵里香さんの緻密なセリフまわし、文章にやられました。かつて『アンクルトムの小屋』を読む玉ちゃんを描き英文学っ子という伏線を引いていたのは、なるほど、ここにつながるのか。
桜井さんは近年、いろいろな作品で見ていて好きな俳優さんの一人ですが、気高く清楚な涼子役は見事ハマりましたね。羽瀬川なぎさんはすいません、知ってはいたけれど本作まで顔と名前が一致してませんでした。朝ドラ『カムカムエブリバディ』ほか近年は怒涛の勢いで話題作に出演されているんですね。これからも応援したいし、こういうブレイク女優が出てくるから僕は朝ドラを見続けているわけです。ドラマ前半ではサッカーでいう「2列目」、パス出しと守備に徹している印象でしたが、ここに来て点を獲れるストライカーに変身するとは、参りました。

四コマ目の隅でも光る存在感の伊藤沙莉よ

と、普通に振り返るとこれで終わりなのですが、ここではもう一歩踏み込みヒロイン寅子、伊藤沙莉さんのスゴさに触れたいと思います。
前述の涼子、玉の美しいシーン、寅子はそれに「寄り添って」いました。またしてもサッカーの例えでいうなら(サッカーに詳しくない人でもなんとか察していただけると)2列目に退いてディフェンスとボール回しに徹した印象。2人にドラマヒロインの座を一時的に渡してやさしく見守る寅子。カメラも寅子の後ろからのアングルを多用しそのことを強調していましたね。
僕がここで思い出したのは『サザエさん』です。日曜18時30分のアニメではなく、長谷川町子先生の原作。マンガではサザエが主役でない話にもサザエさんが力技で登場することが多く面白いです。四コマの最後に隅に顔を出すなどしてその作品が『サザエさん』であることをしっかり示し、主役を担っていました。
前述のシーンでは寅子、伊藤沙莉さんは、2人の様子を見ながら少しずつ感情を押し出していく。背中しか見せてないのに途中で泣いていることがわかるほど完璧な演技をしていました。そして、玉ちゃんを叱咤する声をかけ、あの英語のシーンが生まれます。四コママンガでいうと、1-2コマは涼子様と玉がずっと描かれていて三コマ目に「叱咤」する寅子、四コマ目の英語のシーンの隅で涙を流す寅子というところでしょうか。背中で、隅で成り立つというのがかなりスゴい能力だと感じます。
実はこの「ヒロイン以外が主役」は朝ドラでは頻出。半年間と期間が長く他の登場人物にも命を吹き込まないととてももたないからです。3ヵ月のドラマでもいえることでしょうが、6ヵ月と長期にわたる朝ドラこそ「ヒロイン以外が主役」は多くなるし、そのときのヒロインの立ち振る舞い、登場の仕方はドラマの質につながります。
まず寅子目線でいうと、彼女は近年朝ドラヒロインには珍しいほどの「優等生キャラ」(このことについては今後一度ちゃんと語りたいと思います)。玉ちゃんに歩み寄る、叱咤する、そして一歩引いて見守るという役も違和感がありませんでした。そして伊藤沙莉さんはこの役柄をここでも上手にやってのけた。ずっとフォーカスされ続ける「普通のヒロイン」でなく、ときに2列目に下がって「見守るヒロイン」を完璧に演じていましたね。これを執筆するために何度も第84回は見たのですが回数を重ねて見るほど良いシーンで、涼子様、玉ちゃんももちろん最高なんだけど、「伊藤沙莉ここにあり」と感じました。サザエさん級の強さ、存在感を出せる俳優は男女問わずそんなに多くないと思います。

優未との距離感こそ、これからの見どころ

ほかにも、もっと四コママンガぽかったのが、これも第84回の冒頭。
下校途中、先生にいわれたからと優しくしようとする新潟の学友に対して、誰のせいでもない、もう一緒にいなくていいよと伝える優未(竹澤咲子)。その様子を遠くで見つめ声をかけず切ない想いをする寅子。
帰宅後、「すぐごはん作るから」と寅子は目を合わせず優未にいい、優未と声を掛け「変顔」をする2人。

ナレーション:もしかして優未も私を
優未を抱きしめる寅子
寅子:少しだけ、このまま  優未はすごいなあ
優未:なんの話?

2人の「溝」が少しずつ埋まってきたことを感じるとともに、優未を見守るという2列目の動きも印象的でした。
寅子:優未、この前は友達を作ったほうがいいなんてごめんなさい
優未:私、「よりどころ」ならたくさんあるよ、お母さん、花江さん家族……。
という第85回につながります。第84回のナレーションの下の句はこの優未のセリフという解釈で良いでしょうか(違う解釈あれば教えてください!)。
回またぎのキレイな四コママンガでした。フォーカスするのは優未ちゃんながらこれも四コマ目の隅の寅子独特の存在感が素敵です。優未との関係性がグラデーションのように少しずつ、でも確実に変わっていく様が見どころですね。本作は寅子の「お仕事もの」ではあるけど娘との関係性にスポットライトをビタっと当てているのが強さであり、後半の注目ポイントといえるでしょう。あれ、後半!?あと2ヵ月で終わるの?やだ!

と、語ってきましたがお気づきでしょうか。今回は星航一(岡田将生)も、美佐江(片岡凛)も、タロジロ(高橋克己、田口浩正)の話を今回はあえてセーブ。オモロいぜ新潟編。まあ、来週も楽しみじゃ。


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