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アトツギ甲子園の感想雑書き①


はじめに

私は、明治17年創業の羽生田鉄工所で専務取締役をしている羽生田大陸(ハニュウダ リク)と申します。最近目にすることも増えた、"アトツギ"という属性を持った者です。あまり知られていませんが、2022年の第3回アトツギ甲子園では、「ミニマルロスレスなCFRPでものづくりの魅力を最大化」を掲げ、ファイナリストとしてピッチをさせていただきました。

当社は、長野県長野市にある圧力容器と装置・ラインの開発製造を主としたメーカーで、元々は農具の鍛治屋から始まりました。そこから、社会の変化に合わせ、目の前の産業の困りごとをものづくりの力で解消してきた会社です。
私は、羽生田鉄工所の4代目の息子として、この会社と共に生きてきました。成り行きは割愛しますが、羽生田鉄工所には「後継者になろう」と決めて入社しました。

エントリー時に考えていた事

アトツギ甲子園はTwitter(現X)で見かけ「あまりよくわからないけど、ちょうど事業継続・成長のために真剣に取り組んでいる新事業があるし、エントリーすれば少なくともウェブサイトには掲載されるし、長野県の出場者が全然いないから関東や地元自治体へPRになるかもしれない。」などの考えからエントリーしました。

書類選考通過

ありがたいことに書類審査を通過し、アトツギとして経営資源を有効活用すること、新事業自体の魅力、その先にある事業の継続・成長等を含めた4分間のピッチの準備を始めました。このとき、まずは"アトツギ"とは何か?を自分なりに理解し、それを反映する必要があるように感じました。

”アトツギ”ってなんだ

シンプルに考えれば、アトツギは次代の後継者のことだと思います。後継者というのは、事業の後継者です。事業が長く続き、人間の労働者としての寿命より長く続くものになれば、後継者が必要になります。企業が潰れなければ、これからの社会は、さまざまな企業の後継者が支えていくことになる。単に続けるだけでは、産業全体の衰退を招くこともある。そして、「続ける」ノウハウの共有が、後継者がいない企業にとって後継者を見つける一助になるかもしれない。業界ごとの繋がりのように、後継者同士のつながりを作る意義もある。そのためには後継者が集まるための新しいキーワードが必要。"後継者"は普通の単語なので、ラフで次世代感を持ち得るカタカナを使ってアトツギとしたのではないか考えました。(真相は知りません) 今より先の日本の社会には、既存の事業と事業を構成する有形無形の資源を継続的に有効利用し、次代につなぐ役割が重要で、そのためにアトツギという概念必要であるのだと思います。多分名前はなんでも良いと思うのですが、結果的に多くの後継者の繋がりができつつあることに大きな意義を感じます。

これを思った時、私のピッチは、自社と新事業の価値を丁寧に伝えれば良いだけであることに気がつきました。アトツギ甲子園は、公式が謳っているように、特別なことではなく、新事業を伝える・新事業をブラッシュアップする、一歩を踏み出すための機会のようです。

4分間のピッチ作り

"アトツギ"の意味を自分の中で理解したところで、具体的にピッチの内容を考えていると、ピッチの中で絶対に「CFRP」を説明しなければならないことの大変さに気づきました。
CFRPというのは、炭素繊維強化プラスチックというポテンシャルの高い材料です。

理解には知識が必要ですが、新事業のコアになる新技術の価値を説明するためにある程度正確な理解をしてもらわなければなりません。しかし、4分の中に含めるのはなかなかきつい(短い)。いっそCFRPを説明しない方法を考えましたが、私たちの新事業はCFRPのポテンシャルの高さを感じるか感じないかで、その意義が伝わるか伝わらないかが変わってくると考え、これを含めた上で、他の要素をどのように伝え切るかを考えて、なんとか作り上げました。

今回のピッチはカンペなしで話す必要があったため(ピッチとは元来そういうものなのかもしれませんが)これまでになく練習をしました。
全部暗記するのが良いのか、暗記でなく全体の流れと資料をもとに時間内で要点を話す練習をするのが良いのか。など、色々なことを考えながら、結局、全体の流れで話すことをベースに、一部暗記する方法に落ち着きました。全体が4分なので、かなり圧縮しても理解してもらえる表現を使わないと収まらないという判断からです。

当日を迎え、当社が東京拠点にしているDMM.make AKIBAにて軽く練習してから会場に向かいました。(防音の会議室が便利でした)

関東大会が始まる

この大会は、ピッチコンテストを一つの番組として配信する形式であったため、始まる前に沢山の説明を受けましたが、ここだけの話、正直あまり集中して聞いていませんでした。(これが後に響きます)。

始まるまで時間があったため、他の出場者と会話をしたり、事務作業をしたりしながら待っていたのですが、ふと周りを見ると、仕事着に着替えたり、ピッチに持って出るアイテムを用意していて「その手があったか」と、自分のバッグの中を見ると、ちょうど良いサイズの"CFRPハニカムサンドイッチパネル"があり、これを持って出ることを決めました。
皆との雑談の中で「ピッチ苦手」「緊張している」「準備が足りなかった」などと言っている人が多かったのですが、いざ始まってみると、皆ピッチ上手だったので、内心「うま」と思いました。私はこれまで、ものづくり業界向けのCFRPの基礎から先端技術に関する講義、新事業、技術ピッチ等の経験もありましたが、それは専門性を持って学びにきている人、業界の中の人に向けたもので、たまにカンペみても大丈夫であったため、全く違った緊張感を味わっていました。そんな中、どうにかギリギリまで集中力が切れないように気をつけ、ついに自分の番を迎えました。ピンマイクをつけ、リモコンを持ち、ステージ上の扉の裏に立ったらスタンバイ完了です。

ピッチの感想

私は趣味でギターをしているのですが、ピッチはライブと似ています。
感想は、ミスしないはずのギターソロで走った・音が外れた感覚です。環境の差、コンディションの差に左右され、想像より十分に伝え切れなかったように感じました。つまり、もっと効果的に伝える準備をしていたのに。という感じは少し残りました。私からはとてもうまく見えた皆も、そう思っているのかもしれませんが。

ファイナリストに選出

終わってみると、体力的には消耗していますが、あとはピッチを見るだけなのでかなり気楽です。皆のピッチを見ながら考えていた事は、アトツギというのは、それぞれやはり環境も異なるし、背負っているものも異なるのだな。あのワインうまそうだな。ということです。
全ピッチが終わり、パネルディスカッション等々を終えると、結果発表が始まります。「次は誰だろう」と考えながら待っていると、自分の名前が呼ばれました。ここで、はじめに説明を聞いていなかった影響が現れます。

なんと「選ばれた人は、呼ばれたら起立する」という指示があったのですが、私はちゃんと聞いていなかったため、驚いて座ったままペコペコしていました。スタッフの皆さんや周囲の人は、さぞ「なんだこいつ」と思ったことでしょうが、その節は、すみませんでした。

関東大会終了

その後、「Go to the final」と書いたパネルをもらい、いろいろな撮影をしたり、審査員の方からのアドバイスをもらったりしつつ、「パネルは、誰に返却するのかな」と考えていると、まさかのお持ち帰りでした。持ち歩くにはなかなのサイズです。シラフで持ち帰るのは少し恥ずかしいので、急遽飲み会にも参加することにしました。

(決勝編につづく)

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