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#002 酒飲んで寝てしまえ(エッセイ)

風邪をひいた夫に対し、わたしの父の第一声。

別に、風邪に限らず夫に限らず、父はいつでも誰にでもよく言っている。娘の就職先がうまく決まらなかった時も、残業続きでヘロヘロになっている時にも。

つまり、適当な決まり文句なのだ。

この言葉に具体性はない。信憑性もない。そんなものは最初から存在してなくて、発せられた時点でこの言葉はもう終わっている。
時にそれは「とりあえず休め」であり「落ち込むな」であり「早く忘れろ」にもなりうる。シチュエーションと聞き手の受け取りによって自在に姿を変えるのだから、実に勝手気まま。自分に都合が良いように「もう年寄りだから」と「じじい扱いすんな!」を使い分ける父親そのものみたいだ。

腹立たしいのは、父でもこの言葉でもなく、とりあえず寝たら、翌朝には幾分か元気になってしまうこと(わたしは酒を飲まない)
多少スッキリしてしまっている自分が、この言葉の真意を立証しているようで気に入らない。

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