泥を塗る女
直属の上司であるY女史は、とても話し方の穏やかな人である。疑問・質問があれば、非常に噛み砕いて子どもに対するように教えてくれるので、とても判り易いのだが、時々、私には理解不能な行動に出ては、違和感を植え付ける。
ある時、他部署の対応を必要とする利用者が来た。前述したように、Y女史は直属の上司で、判らないことは全て彼女に聞けと言われている上、他部署の業務にも精通していることから、私は利用者の事情を説明し、指示を仰いだ。するとY女史は、「担当のHに内線で確認するように」と言った為、私は指示通りに実行した。
当初、利用者の求める業務に携わる時、必携すべき書類は四つであるが、内二つは、利用日当日の持参でも可能であるため、最低限必要な二つが事前に揃っていれば、利用日に向けた登録や打ち合わせは、担当者の状況によって遂行可能と教えられていた。ところがHに事情を説明したところ、書類は四つすべて必要だと言う。全てなければ登録・打ち合わせは出来ないと言うので、私は疑問に感じながらも、担当がそういうからには仕方ないのだと諦めて、最低限必要な二つの書類しか持参していなかった利用者に、事情を説明した。
幸い、利用者が私の知り合いだったこともあって、ややこしい話になることもなく理解してもらえたのだったが、そこへ背後からY女史が登場。一旦収まりかけた話を一気に覆し、書類二つでもOK!登録と打ち合わせも今から可能!という風にしてしまったのである。私は利用者を案内するように言われ、その間にY女史はHに話をつけに行ったようであった。
私は取り敢えず、利用者の手間が省けたことを一緒に喜び、指示通り打ち合わせの部屋へと案内したのだが、何故か違和感を拭えなかった。まるで、下っ端は何も解っておらず、融通が利かないが、自分が出て行けば無理難題も上手く収められるのだと言われているようであった。
そういえば、以前にも似たようなことがあった気がした。横から口を挟み、結局最後に丸く収める為、まるで私が嘘をついているような結果になる。決して気分が良いとは言えなかった。
人の顔に泥を塗る…と言うが、まさに言葉通りのやり方ではないかと思った。それとも、部下の顔にはどれだけ泥を塗っても、上司自身が優越感に浸れるなら、それはおかしいことではないのだろうか?
〝非常に噛み砕いて子どもに対するように教えてくれる〟のは、実は親切なのではなく、ただ馬鹿にされているだけなのかも知れなかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?