政治は「まさはる」と読むかもしれない

政治というシステムは白黒をつける。白黒がついていないところには、不都合な何かがある。日本語という言語は、白黒をつけることに向いた言語ではない。曖昧さの中にこそ本質を見ようとする言語だ。だからよい政治と日本語というのはとても相性が悪い。

政治の話がつまらないのは、政治の話をしたがらない人が多いのは、政治の腐敗とか、意識や興味の問題とか、そういうことではなく、そのシステム自体が日本語という言語システムと混ざり合えていないからだ。
「政治」というのはPOLITICSの訳語であるが、そうして新たな日本語を生まなければならないくらい、それは日本語にとって異質なものだった。それは異質だからこそ新しく魅力的にも映った。そこに希望を見出した。それが日本における政治の始まりなのだとしたら、日本人は未だに政治を咀嚼できず、吐き出すこともできず、飲み込むこともできていないのかもしれない。POLITICSが日本にやってきたときから、政治はずっとPOLITICSのままで、だから多くの日本人がその言葉に違和感を覚え、飲み屋の話題ではばかるのだろう。”パッケージと中身”が著しく違う、お菓子を躊躇うように、”POLITICSと政治”に多くの人が戸惑っているのだろう。私もまた。

POLITICSを政治と訳したその日から、政治という言葉の日本における意味は一ミリも変わっていないのだろう。その当時に合わせるなら一尺だろうか。長さの単位は変わり、規格の違いに戸惑ったときがあっただろう。それでもゆっくりとメートル法は日本人に浸透し、ミリもセンチもキロメートルも日本語になった。しかし政治は日本語になっていないのだろう。

やさしく遠慮がちで白黒もつけない、そんな曖昧な言語をぼくはとても好いている。他の言語を学んでも、日本語でしか詩は書けない。「月に吠えらんねえ」第六十二話、少女は日本語についてこう言う。

「やわらかくって のんびりしてて・・・ ラテンの言葉のような勇ましさが足りないんだわ 日本語は優しすぎて 猛々しいうたは似合わないのよ」

無理しなくても、日本語で考えればいい。自分の中にある言葉で考えればいい。自分の中に違和感なくある言葉で。

友だちと飲んだ。都知事選の日だったから、一瞬、政治の話題になった。すぐに話題は変わる。盛り上がらないからだ。誰かを批難したり批判したり、自分の意見を主張したり、そういう盛り上がり方しか想像できず、そしてぼくらはディベートをしたくて飲んでるわけではないからだ。

都知事選は一人として推せる人はおらず、都知事選に限らず政治家たちはみんなキャラが強くなっていて、なんだかいやだった。ぼくは都民じゃないから選挙にはいけないけれど、誰に投票するだろうかと妄想はする。誰かがいつか言っていた言葉「選挙に出るような人はみんなおかしいんだから、中で一番マシなのに投票する」。消去法。ぼくの選挙の仕方。
AKB48の総選挙を思いだす。それから、菓子やアニメキャラや様々な総選挙を思いだす。あれは「選挙」ではないのだ。推しありきの選挙と、消去法の選挙ではまったく意味が違う。そしてあれが大きな盛り上がりと共に、SNSや会話の中で語られて、楽しまれることは、本当の「選挙」に人が向かわない大きな要因になっているだろうと考える。推しのいない選挙は、投票する価値がない。投票権という言葉はまったく違う意味に変貌している。
選挙をゲーム化しかき回すプレイヤーも手伝って、選挙はどんどんその意味を失っていく。

ハライチの選挙のネタ、あんまり好きじゃないんだけど、かなり鋭いことを突いていたのかもしれない。政治家をアイドルに見立て推すネタ。見返したかったが、どこにもあがってなかった。(違法アップロードダメだよ!)

飲み会の帰り道、頭の中に嫌いな自分がいる。グチグチとなにか言っている。偉そうに自分を棚に上げて、他人をどうこう言っている。なんで嫌な自分が出てきたのだろう。飲み会はバイト先でした。ぼくが休んだ代わりに、バイトを卒業した女の子がヘルプで入っていた。友だちに休んだことを非難された。冗談として。そのことに少しイライラとしてしまったのかもしれない。休んだことをなぜ誇っちゃいけないんだろうって。ただグチグチと頭の中の自分が呟いている。「大丈夫」って言ってくれる人がいればいいのに。

いや、ぼくが苛立ったのは発言に対してではない。そんなことを言わせてしまう社会に対してだ。友だちが話す、「明日も仕事だ。」「最近忙しい。」という言葉に辛さよりも美徳を感じてしまったことが悲しかったのだ。働くこと忙しいことの素晴らしさ。献身。それで何かが枯れていっているような感じ。そんなことを美徳にしてしまうような社会と、それに少しずつ飲み込まれていく休みと遊びが好きだった友人。そのことが悲しかったのだと思う。

みんな弱いし、不安だし、優しい。だから僕は友だちでいれるのだ。

エピローグ
日本に帰化したPOLITICSさんは、政治という日本語名を役所に提出しました。しかし誰も自分のことを呼んでくれないのです。折角日本の名前を手に入れたのに。いくら帰化しても、私のことを外国人としか見ないのです。政治さんはとても悲しそうな顔をしています。今日は休みをとりました。政治さんは投票をします。よそ様にならないでいられる数少ない場所のひとつだったからです。それから友人と飲みにいきました。政治さんが今日は仕事休んだんだと言うと、友人たちは最高じゃん、と言いました。政治さんの悲しそうな顔は少し和らぎました。

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