はるかのママレード

 棚の砂糖の中で蟻が死んでいた。透明のパックの底に蟻が見える。これを綺麗というか気持ち悪いというかは人それぞれだ。俺は美しいと思った。

 衝動的にジャムを作りたくなって、棚の奥から砂糖を出した。引っ越したての時に買った上白糖は一人暮らしには量が多く、四年経った今でもまだ半分以上残っている。
 その上白糖の透明パックの底に、真っ白の砂糖の中にひとつ蟻が埋もれているのだ。

 好きなお菓子に埋もれて死ぬ。そういう夢を知っている気がする。蟻は夢を見るだろうか。
 砂糖に蟻。白に黒。モノクロのコントラスト。糖分はエネルギー。もがき苦しむ体力だけが充填された動き物。

 衝動的にはるかという柑橘を買ったのだった。「見た目はレモンのようだが、食べるとさわやかな甘さが広がる。衝撃的なうまさ。」というポップを見て買ったのだが、正直そこまでの感動はなかった。でも何かあるかもしれないという衝動が、多分体のどこかに残っていて、それでジャムを夜中に作り始めたのだ。皮を使ったママレード。

 祖母が死んですぐ、祖母の家が壊される前、残されたものは全部捨てられてしまうから、物をいくつか持って帰ってきた。その内のひとつが留め金付きの硝子瓶。できあがったジャムはその容器にぴったりと収まった。

 甘い匂いが部屋中に広がる。また蟻がやってくるだろうか。

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