サーカス動物使い(ウラジオ日記22)

サーカスには感動した。人間技は中国雑技団とかの方がすごいし、猿とかだったらゆりありくや日光猿軍団の方がすごいし、蛇と戯れられても蛇を飲む見世物を知っているから驚かない。それでも言われたとおりに犬は駆け回るし、蛇は球形のブランコに絡まったまま舞台の天井で回っている。シャンデリアみたいに。(ルパン三世か何かで、蛇がシャンデリアに絡まる絵を見た気がする。)

蛇が頭上を回っている中登場したのはワニだ。舞台の奥から仰々しく大きめのケージが登場すると中からワニが取り出され、舞台の中央に置かれる。一体何がはじまるのだろう。
動物使いはワニに近づくと、ワニに触る。ワニは動かない。もっかい触る。ワニは動かない。動物使いはワニをお腹から持ち上げると、後ろを向かせる。ワニが置かれた勢いで少し進む。でもまた止まって動かない。何を見せようとしているのだろう。それから動物使いはワニを手で無理やり舞台の後ろへと押し込む。少し嫌そうにワニがまた前にちょっとずつ進む。やっとカーテンの裏までワニが下がると、動物使いはこちらに両手を広げて笑顔で拍手を求める。何のパフォーマンスだったのか。
ワニをただハケさせるパフォーマンス。意のままに動いているわけでもなく、無理やりに動かさせるワニ業者の作業。そもそもワニを舞台の中央に置いたのは黒子だから、動物使いでなくてもワニを移動できてしまっているし。ただ安全なワニの移動を見せられただけ。ワニも戸惑っているだろう。

それでも人を楽しませようとする雰囲気はとてもすばらしく、これが毎週末に開かれていて子どもに夢を見せていると思うと感動してくる。

サーカスの動物たちというのはただコマのように扱われる尊厳のないかわいそうなものなのかと思っていたがそうでもない気がする。動物たちを見ていて思うのは、それが彼らにとって仕事なのだということだ。それをこなせば餌がもらえる。業務をこなす人間と何も変わらない。虐待でも何でもなくて、こき使われているわけでもない、ただ餌の対価として奉仕しているという、シンプルな関係性。それらの技はルーティンワーク。しかもできなくてもしぶしぶ餌はもらえるし、できたらちゃんとほめられるのだから、下手な会社よりいい職場かもしれない。それに何かを求められる場があるというのは、ペットより余程、個性を認められているように思う。ペットは明確な主従関係があって、完全なる依存がそこにある。しかしサーカスで働く動物たちはパフォーマンスとしては主従関係を見せているが、動物の意識としては対等なのではないか。動物の気持ちなんてわからないけれど、飼っている犬を人間扱いする大奥様よりよほど、人間扱いされているように見えた。ペットとサーカスどちらがいいとかそういう話ではない。

途中の休憩時間、サーカスの人がおもちゃを売り歩いている。空を飛ぶおもちゃ。竹とんぼのようなおもちゃはサーカスの高い天井をぐんぐんのぼっていく。それから触ろうとすると、上にふわりと逃げていくおもちゃがあってそれがとても珍しく欲しくなった。上にはプロペラがついていてそれで飛ぶのだが、その機体の下に人感センサーがあって、それで手をかざせばふわふわと永遠に飛んでいるのだ。それは魔法みたいだ。帰りに買おうと思ったのだが、帰りにはもう売っていなかった。

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