多神教 泉鏡花
泉鏡花、潔癖症の怪しい作家。
菌が気になりすぎて熱燗をさらにグツグツ沸騰させるという。
泉鏡花、いいよなあ。
初めて読んだのは「高野聖」だったけれど、その怪しさ(お姉さん)にメロメロになったもんだ。
昔の作家ゆえ、言葉遣いが難しくてぼくみたいな中学国語も適当な者には難儀だけれど、なんだろう、この独特な世界観がクセになるんだ。
というか、毎回出てくるお姉さんが美しすぎる!
さて、ぼくは最近神様にご執心ゆえ、そんな本が読みたくなったところに、これが出たってもんだ。
これね、「青空文庫」なんだけど、無知なぼくはそんなもの知らんかったね、それでね、普通の文庫だと思ってこうたらね、もう、驚愕ね、ペラペラなのね。
「え?なに?この冊子」
ぼくは言ったさ。
そう、説明をちゃんと読めよ、ちゃんと「36ページ」って書いてありますよ。
そう、ぼくはちっとも説明を読まない、説明書を読まない、役場からの手紙も読まない、どうしょうもない中年だ。
隣人は「青空文庫」をちゃんと知っとった、そして青空文庫を尊敬しとった。
そんな隣人は言ったさ、
「これ、なに?字が見えない!虫眼鏡いるよ!」
さて、36ページだもの、ぼくだってすぐ読める。
そんなぼくを見て、隣人は言ったさ、
「それ、何読んでんの?お経の本?」
うん、ものすごく面白かった!
戯曲なのね、これ。
神社での舞台劇ね。
役者なんかしてる色男に捨てられ、呪いの藁人形と五寸釘を持ってカーンカーンしようと神社に隠れて夜を待つ女。
そこにやってくる神主とお付きのものと村人たち。どうも皆おじさんだ。
ああ、姐さん、おじさんどもにみっかっちゃった!
「美しき御神に、嫉妬の願いを掛けるとは何事じゃ。」
ってご立腹よ。
よってたかってナヨナヨした姐さんを慰み者にしやがる。
「構わず引剥げ。裸のおかめだ。紅い二布……湯具は許せよ。」
「堪忍……あれえ。」
って、結局それかっ!
ほんと、おじさんは女の裸が好きだね。
すけべオヤジども、よってたかってか弱い姐さんに裸踊りさせようってんだ、ひどいね、いじめだね。
ここでもあれだ、「正義」の名の下に公然といじめを執行するという。
魔女狩りならぬ、「鬼女」狩りか?
と、パアアアーーーって光り輝く媛神さまのご登場ってもんよ。
雪の降るなか冬の花に彩られ、東山の金さんばりに登場した世にも美しいお姉さん。
「白がさねして、薄紅梅(うすこうばい)に銀のさや形(がた)の衣(きぬ)、白地金襴(しろじきんらん)の帯。髻(もとどり)結いたる下髪(さげがみ)の丈(たけ)に余れるに、色紅(くれない)にして、たとえば翡翠(ひすい)の羽(はね)にてはけるが如き一条(ひとすじ)の征矢(そや)をさし込みにて前簪(まえかんざし)にかざしたるが、瓔珞(ようらく)を取って掛けし襷(たすき)を、片はずしにはずしながら、衝(つ)と廻廊の縁に出(い)づ。凛(りん)として」
漢字読めなくても、親切にかなふってくれてあるんだ。
鏡花はさ、綺麗なお姉さんの描きっぷりがいいんだよ。色も見えるんだよね。
そんで、痛快なのは神様であるこのお姉さん、
「聞きましょう…その男の生命(いのち)を取るのだね」
ええーーーーーーッ!!!
おじさんたちは騒然となる、だって信じて崇めてた神様がいきなり呪いを成就させるってんだから。
おじさんたち、恐る恐る異議申し立てるけど、お姉さんは、お前らの言ってることはよくわからん、と放置。
で、にっくき色男はお陀仏になるという。
呪いのお願いが叶った姐さん、感動のあまり、下僕にして!って頼むけど、優しい神様お姉さんは気をつけてお帰り、って馬まで貸してくれるんだ!
男尊女卑で虐げられてるか弱い女子。
色男に弄ばれ、おじさんにも弄ばれ、もう身も心もぼろぼろよ。
昔はさ、今よりもずっと女性はほんとに弱い立場だったろう。
そこに、若いお姉さんの姿で登場する絶対権力をもつ「神」。
おじさんたちを完全に無視。
なんだろうね、女の人が強いと平和っていうか、お姉さんに何も言えないおじさんたちが笑えるっていうかね、痛快ね。
鏡花は美しくて強い女性が好きだね。
ぼくもそんな女性は大好きだ。