宅建士試験で40点取って合格するための最も簡単な方法はこのライトノベル小説を読むことです 権利関係編1-10

「『嫡出子と非嫡出子』と『全血兄弟姉妹と半血兄弟姉妹』。この違いがよく分からねえ! 」
 宅本建太郎が頭を抱えて悲鳴を上げると、勉強を見守っていた司法書士の桜咲胡桃が「全くもう! 」と頬を膨らませた。
 ここは、桜咲胡桃が経営する司法書士事務所である。
 一日の仕事を終えた後で、胡桃は、補助者として働いている建太郎に宅建の勉強を教えているところだった。
 窓の向こうは暗闇に包まれており、周辺の住宅やマンションから漏れる灯りが星のように輝いている。
 小ぢんまりとした事務所だった。机は二つだけ、その机を包囲するように左右には造り付けの書棚が立ち並び、事件ファイルと法律書が整然と並べられていた。その他、入口に近い場所に来客との面談用のテーブルがあるだけだった。
 つまり、この事務所は、本職の司法書士である胡桃と補助者の建太郎、二人だけのオフィスなのだ。
 建太郎は今、面談用のテーブルで宅建のテキストを広げているところだった。勉強している項目は、権利関係――民法の相続編である。反対側では、胡桃が帳簿をチェックする合間に、建太郎のテキストをのぞき込んでいた。
「まずは、用語の意味から勉強する必要があるわね。『嫡出子と非嫡出子』。別の言い方では、『婚内子と婚外子』という言い方をする場合があるわ。これなら意味が分かるでしょ? 」
 胡桃の言葉に、建太郎は、しばし、考え込んだ後で、
「つまり、非嫡出子ってのは、愛人の子という意味か? 」
「そうよ。それに対して、嫡出子というのは、結婚している男女間の子供という意味よ。説明だけでは理解できなければ、実際の事例で考えてみればいいわ。例えば、誰にしようか」
「ああ。俺の伯父さんとか」
「不動産王の宅本健一さんのことね? 」
「そうさ。健一伯父さんは、亡くなった静香おばさんとの間に、俺の従兄たちがいたんだ。ヤクザの一味になった二番目の従兄を除いて、みんな死んじゃったけどさ。従兄たちのことを嫡出子っていうんだよな? 」
「そうよ」
「それに対して、愛人の崎本春子のお腹にいる子は非嫡出子ってことになるわけか? 」
「崎本春子? 宅本春子さんのこと? 」
「そうだよ」
「宅本春子さん――旧姓崎本春子さんと宅本健一さんは正式に婚姻届けを出して、再婚したんでしょ。そうであれば、宅本春子さんのお腹にいる子も嫡出子なのよ。建太郎の従弟か従妹でしょ」
「えっ。そうなのか。ややこしいなあ……」
「宅本春子さん以外に愛人がいて、その人に子供がいる。なおかつ、宅本健一さんに認知されているということであれば、その子が非嫡出子ってことになるのよ」
「いるかもしれないぜ。崎本春子だって、もともとは、愛人だったんだからな」
「だとしたら、宅本健一さんに万が一のことがあったら、相当ややこしい話になるわね」
「ほんとだよ。崎本春子が伯父さんの遺産を受け継ぐことになったら、親戚の人たちも快く思わないだろうな。あの女は、伯父さんの遺産が狙いで近づいた腹黒女だよ」
「そんなことを言っちゃダメでしょ」
 胡桃が咎めるも建太郎は言葉を続けた。
「それに愛人を名乗る奴が、続々と現れて権利主張するかも。私の子供も伯父さんの非嫡出子なのよ! って感じでさあ」
「宅本健一さんの遺言執行者は、大変な苦労をすることになるでしょうね」
 胡桃がため息を洩らした。
「それで、相続において嫡出子と非嫡出子の区別は無くなったってこと? 」

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