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何度でも読み返したいnote1

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何度でも読み返したいnoteの備忘録です。 100作品たまったので、何度でも読み返したいnote2を作りました。
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#創作大賞2022

好々爺しげさんの独り言は         かるくて深くてせつない

この世を去った後に その人の存在が さらに 大きくなるということがある。 しげさんが亡くなったのはコロナ禍真っ只中の春だった。 葬儀はひっそりと行われ、家族だけに見送られて旅立った。 あれから1年半。しげさんの言葉は生き続けている。いや、その言葉の重みは増しているのだ。 しげさんの生前の生活は平凡だった。穏やかな日々。でも、だからこそ心豊かに生きるヒントがいっぱい。 ちょっと覗いてみましょうか。 第1章 縁側でにゅうめんを      すするしげさん しげさんの好物は

むらさきの指輪の行方

「明日予定ある?ヒマなら出かけよう。」 夕食後リビングで本を読んでいると、ジン兄が声をかけてきた。 ここは母の姉である伯母の家。 母と伯母は5人兄妹の中でも仲が良く、長期休暇には母とふたりで帰省し、伯母の家でお世話になることが多かった。 従兄弟のジン兄ちゃんとゆう姉ちゃんがいて、ふたりとも昔から私を本当の妹みたいに可愛がってくれた。 「いいけど、どこ行くの?」 「友達とめし食べよう。」 当時私は高校生、兄ちゃんは大学生。冬休みを利用し2週間ほど滞在させてもらっていた

人生の肩書を考える

ないないない、肩書ない。そう、わたしには、肩書がない。 課長!部長!社長!みたいな、THE プロフェッショナル 仕事の流儀みたいな、肩書は、もちろんないが、○○ちゃんのお母さん、○○さんの奥様、○○くんの彼女、みたいな、人生の肩書もない。もちろん、芸名だってない。 (愛亀のお母さんは、ノーカウント?え、なんで、四足歩行だから?) ちなみに、戸籍が抹消されない限り、○○家の娘さんで、あり続ける。(平安時代じゃないんだから、大丈夫) ただし、それは、生まれたときから、右頬

招待しなかった友達が結婚式に来た話

私がオットからプロポーズされた時、1番に報告したのは親でも姉でもなく、高校時代の友人だった。 高校で出会い、同じ部活に入り、家庭科の授業では私のしぶといプロポーズに折れ結婚と子育てさえしてくれたマミは、私と学生時代に最も長い時間を共に過ごした友人の一人である。もう1人仲の良い友人のミクと一緒に、大人になった今も私たちは3人で毎月のように会っている。 私が2人に婚約指輪を貰ったと写真付きで連絡するとマミからは「そうだろうと思った」と返事がきた。プロポーズは私の誕生日、そろそ

たらない雑煮

慌ただしい朝の台所に母と並んで立ちながら、この二年という歳月がもたらした明らかな変化に、私はいちいち反応している。 *** うちの雑煮は昔からずっとすまし汁で、具は餅と紅白の蒲鉾とかしわと決まっていた。お椀の上に三つ葉を結わえて浮かせ、仕上げにゆずの皮をほんのひとかけら散らす。私が物心ついたころから母が作り続けてきた味は、確かに二年前に訪れたときまで、ちゃんとここに存在していた。 「お節は出来合いでも、お雑煮ぐらいわねぇ。」 母はそう言って、昆布と鰹節でとった澄んだお出

あの日わたしは、サンタになりきれなかった。

「うちんち、サンタさん遅れて来るねんて!」 クラスの子どもたちが、休み時間に何人かでわたしの机の周りに集まり、クリスマスにサンタから何をもらうかの話をしている時だった。 当時担任を受けもっていた、Nちゃんが笑いながら、さらっとそう言った。 「え〜クリスマスに来えへんのー?へんなのー!」 とそれを聞いて、横にいたSちゃんが不思議そうな顔をする。 「待つ楽しみが、大きくなっていいやん! ねえ、Nちゃん!」 わたしは、丸つけから顔をあげ、笑ってそう言った。が、内心ぎゅっと

ゾウは自分の意思で虹をかける

「自分の意思で虹をかけるのって、人間とゾウだけなんだよ」 ある日、不意に話しかけられた内容は、妙にファンタジックだった。 彼は、言いながら黙々とゾウの絵を描いている。 「え、そうなの?クジラは?クジラも虹出すんじゃない?」 私は、思いついて、意地悪く否定する。 「クジラはさ、たまたま潮を吹いた時に虹がかかるんだ。でも、ゾウは、虹を出そうと思って水を撒くんだよ。それって、同じ虹でも、大分違う」 ゾウって虹がみえてるの? そう言うのはやめた。 彼の描く絵のゾウが、虹を作