弟にネイルをしてあげたって話
ネイルも髪も、好き勝手な色に変えるのが好き。赤もピンクも紫も青も、爪は大抵の色に染まってきたし、髪は全頭ブリーチの上に何色も重ねてきた。ネイルや髪の色を変えることは、私にとってストレス発散方法、リフレッシュ方法の一つ。だから、特に何も考えずにやってきた。
新年あけるとすぐに、私は成人式に向けて知り合いのネイルサロンを予約した。普段はセルフネイルだが、今回は成人式と言うこともあり、奮発。とは言え、知り合いが趣味程度にやっているものなので、他と比べてかなり安い。
華やかになった自分の爪を、一日中眺めていた。飽きずにずっと。流石にセルフネイルとはわけが違う。綺麗だった。見惚れた。
それに見惚れていたのは、私だけではなかった。
「すげー、それやって貰ったの?」
突然弟が問う。仲良しの弟。一緒に映画や買い物にいく弟。春から同じ大学に通う弟。
「うん、あんたもやって貰う?」
冗談交じりに聞いてみると、彼の反応は意外なものだった。
「やって貰おうかな…」
それから、興味津々に色々聞いてきた。値段を聞いて、無職の彼は一瞬ひるんだが、そこはこれから探すバイトを始めれば余裕であると気付いたようだった。
アイドルが大好きで、可愛い子は待ち受けにしちゃう弟。男子校に通った影響で異性と話すことが苦手な弟。でもこの間一目惚れして撃沈した弟。
そして、何歳になっても私の真似をしたがる弟。
そして昨日。ふと思い出したように彼が言った。
「あ、ネイルしてよ。」
何を突然と思ったが、とりあえず部屋から好きな色を持ってこさせた。100均で揃えた逸品たち。貧乏だから、110円より高いネイルを買うには度胸がいる。だから100円ばっかり。
選んできた色は、黒、青、グレー、水色の四色。そのうち青は古いので却下。今私の足の爪を染める黒は、予想以上にはっきりした黒だったため却下。残りの二色から彼が選んだのは、私もお気に入りの水色。爪を差し出させ、そこに色を乗せていく。
華やかになった自分の爪を、彼はじっと見つめた。太陽に照らしたり、机をバックに眺めたり、ありとあらゆる角度で自分の爪を見ていた。可愛かった。ずいぶん気に入ってくれたようだった。嬉しい。可愛い。
爪が綺麗になったところで、あんたは眉毛を整えてひげを綺麗にして痩せなさい。そう忠告すると、今までは聞く耳を持たなかった彼が、照れくさそうに頷いた。風呂上り、私に眉毛の整え方を教わる弟。私が抜いてあげると悲鳴を上げる弟。額を真っ赤にして耐える弟。朝、ひげを剃って二回目の卒検に出かけた弟。
姉は、どんな弟も可愛くて大好きよ。
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