最後まで部長じゃなかったc へ

最後まで部長じゃなかったc へ

 お久しぶり。どんくらいぶりかな、夏に部活でZOOMやったぶり?そのときもまさか本当にcが来ると思ってなかったからびっくりしたなあ。元気にしてる?よね。

 cとは一年の頃から同じクラスで、同じ部活で、何かと接点があった。だから最初は仲良くして、一緒に話したりするのが楽しかったな。趣味も似ていて、話が合う人がいるっていうこと自体が嬉しかった。

 だけど、そんな良好な関係も長くは続かなくて、少しずつ関係性は悪化していった。クラス内でcがいつも一緒にいた窓際の子たちと、私が一緒にいた廊下側の子たちとは、折が合わなかったみたいで。
 私はあなたたちが苦手だった。集団の勢いでむりやり押して、自分たちの都合を通そうとするから。一人で戦えない人は、私あんまり好きじゃない。だけど、こっちはこっちでそれに正論対抗したけど、問題だったのは態度。あの頃、自分の都合しか見えてなかったのは私の方だったのかも知れない。

 結局その関係性は最後まで続いて、一年間は終わった。そして二年に上がって、私たちはまた同じクラスだった。違ったのは、部員がもう一人同じクラスだったこと、cの仲間が一人しかいなかったこと。


 私は一年のときとは全く違う新しい人間関係を築いて、新しい雰囲気の友だちが出来た。楽しかった。心が穏やかになれた。そうやって心に余裕が出来ると、少しの嫌なことくらい目をつぶれるようになる。

 cたちは相変わらず暴君みたいな振る舞いをしていたけど、そのせいか二匹狼みたいになっていた。そんな二人を、可哀想、だと思った。ただ、それはかつて私が通ってきた道でもあったから、多少の嫌悪感はあった。

 部活内でも、cは上手くいかなくなっていった。今まで充実していたクラスでの集団活動が崩れ、歯車が狂いだした。一つが上手くいくと全部うまくいくように、一つが悪くなると全部悪くなる。たまたま前者が私で、たまたま後者がcだっただけ。

 私が部員と打ち解けられた四月の終わり、彼女らは昨年度の話を沢山してくれた。どんなことをして、そのとき誰がどんな感じだったのか。最初は楽しい話ばかりだった。それが段々、特定の話に切り替わっていった。

 cは部長なのに何もしていない。cは仕事を放ってすぐに帰る。cは部長の仕事すら人に投げる。

 昨年私に見えていたcの姿は、充実して楽しい高校生活を送っているものだった。教室内でのcしか知らないけれど。だけどそれは、本当に教室内だけだったんだよね。あの集団から抜けたら、cは上手く立ち回れなかったんだね。

 そうやって、大会から文化祭という多忙な時期に突入し、私は彼女たちが言ってることの真意が分かった。というか、言葉通りだった。でも、それに呼応するように態度が悪くなった私も、十分問題の種だった。

 文化祭の直後、私たちは話し合いをした。とは言え、5対1だったし、私たちは何を話すか決めていたし、私たちにはきちんと話が出来る人がいた。でも、cは一人。苦手な、一人。圧迫面接みたいになってたと思う。
 当時はそれに気が付かなかった。

 結局話し合いも意味がなくて、表面上は部員として仲良くしていたけど、お互いの鬱憤が晴れた訳じゃなかった。だから、そんな良好な状態も、長くは続かなかったね。

 それが転じたのが、二年の秋。顧問の先生が産休に入られる前。
 『表面上だけでも仲良くしなさい。そうすれば、いつの間にか心から仲良くできるようになるから。』
 先生が、最後に私たちに教えてくれたことだった。

 大好きで尊敬する先生の言葉。私たちは従うしかなかった。それで心が軽くなるのなら。すがりたい。でも、すがったのは藁じゃなくて、太くて強い棒だった。

 私たちはやっと、やっと本当の友だちになれた。先生へのビデオレターも、一緒にみんなで作った。みんなでアイディアを出して、みんなで笑った。みんな、みんなで作った最初で最後の作品。

 一年後の春、私たちは友だちとして卒業した。友だちとしてご飯を食べ、友だちとして語った。かつて険悪だった頃の話をしては、互いの非を互いに指摘し、それを肴に大笑いした。あんなに辛かったのに。二日に一度は誰かが涙を流していた時期もあったのに。それでも、なんのしがらみもなく笑えた。

 誰かと正面から衝突して、一から友だちになる。そんな経験をさせてくれてありがとう。私たち二人は、特に本当に仲が悪かった。それは、私たちが似た者同士だったからだと思う。同族嫌悪でばちばちしてた。本当にごめん。素直になるのに時間がかかり過ぎた。意地を張り過ぎた。ごめん。
 一人で辛い思いをしていたのに、一緒に笑ってくれてありがとう。

 今後の人生で、あそこまで誰かを憎んで、誰かを好きになることなんてないと思う。それくらい重たい経験だった。だけど、それだけの価値はあったと思うよ。私はね。

 cという人間と出会えてよかった。沢山のことを学んだ。ありがとう。嫌な思い沢山してきたけど、またそのことで一緒に笑おう。その日が来るまで、私は今の環境で沢山笑うから。またね。


2021年2月25日 はのと

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