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空いた場所

荷物のなくなった部屋は、がらんどう。

引っ越しの日まではまだ数日あるけれど、同居人が少し物を運んで、つい昨日の朝まで見えていなかった壁が顔を出した。
暖房器具がなくてただでさえ寒い部屋に、冷たい空気が充満していくのがわかる。

台所からベッドを行ったりきたりする度に、少し建てつけの悪いとびらがカタカタと立てる音を初めて聞いた。
今までこちらばかり向いていたテレビの声が、がらんと空いた後ろの空間に逃げていく。

ひさびさに友達と夜、電話で話す。
「もしもし〜」
私の声も、どこか遠くへ逃げていく。

「ねえねえ、なんか声の響き方変わった感じしない?」
「いやいや、そんなのわかんないよ笑」

電話越しの友達には、もちろん伝わらない些細な変化。彼女が、この部屋を見たことも足を踏み入れたこともないのを思い出す。

どこか落ち着かない空気の中で、1人布団にくるまった。

次の日の夜。
『家が寒い。』
先に帰宅していたあの人から、連絡がきた。

『うん、寒いよね。』

私たちをかろうじて繋げているこの部屋は、少しずつ走る速度を落として、静かに、空っぽになっていこうとしている。

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