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アフガニスタン情勢:雲散霧消し、邦人保護業務を放棄した外務省の在アフガン大館員

 世界各国には、日本の外務省の出先として在外公館と呼ばれる機関が設置されています。日本の外交活動の拠点としての存在意義もさることながら、当該地域に居住或いは旅行する邦人の安全と保護という領事業務という重大な任務を担っています(詳しくは、下記拙稿をご覧ください)。アフガニスタンにも当然ながら大使館が存在しています(した?)。

1    今次アフガンの混乱に乗じて発生した前代未聞の出来事

  あまり報道されておらず皆さんご存知ないかと思われますので、この点について私が知り得る範囲内のお話をさせていただきます。

  8月15日、タリバーンが30万人もの国軍相手に首都カブールに進軍して瞬く間に首都を陥れたその日、在アフガニスタン日本国大使館に勤務する大使を含む大使館員全員12名がアフガニスタン国外から友好国の航空機にて中東ドバイに退去。その後パキスタンのイスラマバードに移ったという報道がなされました。外務省の在アフガニスタン日本大使館も自らのHPでその旨を説明しています。

(8月17日付日経新聞を引用。原文ママ)

 外務省は17日、アフガニスタンの首都カブールにある日本大使館を15日付で一時閉鎖したと発表した。大使館職員12人はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに退避した。「友好国の軍用機によりカブール国際空港から出国した」と説明した。

外務省は安全上の理由で出国に協力した友好国の国名を明らかにしていない。今回の閉鎖理由については現地の治安状況の急速な悪化を挙げた。当面はトルコのイスタンブールに臨時事務所を置いて業務にあたる。

同省幹部によると、国際機関などで援助関係の仕事をする邦人が現地に残っている。帰国を希望する人が日本に戻る段取りはついているという。外務省はアフガンからの退避勧告を出していた。

(引用終わり)

 (在アフガニスタン日本大使館HPから引用。原文ママ)

 重要なお知らせ
 【報道発表】在アフガニスタン日本大使館の一時閉館とイスタンブールにおける臨時事務所の設置について(2021.8.17)

1 在アフガニスタン日本国大使館は、現地の治安状況の急速な悪化を受けて、8月15日をもって一時閉館し、トルコのイスタンブールに臨時事務所を設置して当座の業務を継続しています。アフガニスタンに残っていた大使館の館員12名は、本17日、友好国の軍用機によりカブール国際空港から出国し、アラブ首長国連邦のドバイに退避しました。
2 引き続き、イスタンブールの臨時事務所において、邦人保護等の業務に最大限取り組みます。イスタンブールにおける連絡先は以下のとおりです。
在アフガニスタン日本国大使館
(在イスタンブール日本国総領事館内)
Tekfen Tower 10th Floor, Buyukdere Caddesi No.209, 4.Levent, 34394, Istanbul, Turkey
Tel: +90-212-317-4600
Fax: +90-212-317-4600

(引用おわり)

2   パキスタンに雲散霧消した在アフガニスタン日本大使館員が取るべきであった措置とは?

 国内の混乱に乗じて自分たちだけ「友好国」(今回は米軍ではなく、英軍とのこと)の航空機でいち早く国外脱出を図ったという今回の在アフガン大館員の行動について、皆さんどうお考えでしょうか?

 私はかつて某国の大使館領事部で勤務した経験者であり、上記の拙稿でお話しした通り現地に居住・旅行する在留邦人の皆さんへの対応として

  🔹 任国及び周辺地域の安全情報、テロ情報の提供

  🔹 旅行者の怪我、死亡に対する現地対応(病院手配、遺体の本国移送)

  🔹 有事における緊急対応

を行なってきたこともあることから、今回の在アフガン大職員の行動は合点が行きません。

 私の古くからの友人(米国人)は、海兵隊の弁護士から外交官に身を転じた変わり種ですが赴任地のインドにてデルタ株対応に追われており、家族は本国に返したものの今でも単身インドに残って在留邦人(この場合は米国人)の対応に追われる毎日です。

 これらを総合的に判断してみると、今回のアフガン政変で在アフガニスタン日本国大使館員が取るべきであった対応は以下のとおりであったと考えられます。

  🔹 官房職員(会計、総務、広報)は一部を残して国外退避

  🔹 領事班員、政務班員は残留して情報収集及び邦人保護対応

  🔹 館長(大使)及び次席は状況次第で残留或いは退避を決定

 20年間という長時間があったのですから、大使館員は当然ながら日頃から有事の際の邦人連絡網と衛星電話などの緊急連絡手段を構築し定期的な有事訓練を行なっていたたはずですから、これらを今回の実際の現場で生かすべきであったと考えます。アフガニスタンという非常に特殊な地域(外務省の業界用語で「奨励度が高い」と言います)ですから、おそらく防衛省や警察庁からの出向者も館員として赴任していたのではないかと推測されますが、こういう有事に強いとされる危機管理のプロまで尻尾を巻いて逃げているのであればもうこれは論外と言うより他にはありませんね。

3   残された在留邦人、大使館に勤務していた現地人はどうなったか?

 これについては、私の手元に現地からの生の情報が一切ありませんので憶測の域を出ませんが

  🔹 在アフガン大使館員の取った行動に対する大使館員及び日本国政府への不信感と憤り

  🔹 国外退避できるか否かの点も明確でないことから絶望感と「見捨てられた」という思いと恨みの極み 

にあることは想像に難くないと思われます。

4   今次事案の教訓

  外務省員は一部の事故者などを除いて在外公館における勤務を免れないのですから、在外公館における責務・職責を改めて自覚・認識していただきたいものです。

  在外公館勤務をバカンスまがいに勘違いしている外務省員(各省庁の出向者を含む)に対して職務倫理教育、職責などを根本から再教育することも忘れてはならないと思います。

  今回の件を教訓として今後の大使館業務に生かしていただくことを切に願う次第であります。


  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

  アフガニスタン情勢は今後も大きく動くことが予想されますので、引き続き事態を注視するとともに定期的にノートや音声メディアを通じて発信してゆきたいと思います。 

 


   

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