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ワンダフル ワールド


 僕は、紙人形だった。
 小学二年生の誠くんが、スーパーのチラシで僕を作った。だから、僕のお腹部分には、豚肉の写真と100g190円と書かれた文字がある。はっきり言ってダサい。そう文句を言ったら、誠くんは驚いた顔をして「えっ、スーパーくん、キミは僕のお気に入りだよ」と応えた。
 スーパーマーケットのチラシで作ったから、スーパーくん、それが僕の名前らしい。
 手先が器用な誠くんは、ケント紙、ティッシュ、半紙などからも人形を作っていて、どの人形も個性的だった。多様な魅力があった。
 
「はい、みなさん、席についてください」
 誠くんは、僕たち紙人形に言う。
 ダンボールで作られた街には、学校があって、僕たちはそこで勉強をしなくてはいけない。
 不登校の誠くんには、街や紙人形の創作時間だけでなく、僕たちと遊ぶ時間もたっぷりあった。
「今日は九九を覚えましょう」
「みんなで仲良く遊びましょう」
 誠くんが言う。僕たちは誠くんに従って動く。
 紙の街、紙の世界は平和で、僕たち紙人形と誠くんは、毎日楽しく過ごしていた。

「半紙、半紙、半分死んでる半死」
 ある日、ケントくんが歌うようにそう言って、半紙くんをいじめた。
 半紙くんは身体をくしゃくしゃに丸めて泣いた。ティッシュちゃんが半紙くんの涙をそっと吸った。
「ティッシュちゃんって、誰にでも優しくしすぎよね。八方美人。こないだもさぁ」
 赤青黄色、いろいろな色の折り紙さんたちが顔を突き合わせて噂した。
 紙の街が険悪なムードになっていく。
「やめろ。ケンカは禁止だ」
 誠くんは、紙人形たちに叫んだ。
 僕も、他の紙人形たちも、びくっとして争いをやめた。
 でも、夜、誠くんが眠ってしまうと、僕たちは自由だった。自由に争い戦った。
「誠くんが作ったのは、街だぜ。街に争いがない方がおかしいだろ」
「だいたい、なんでアイツの言うことをきかないといけないんだよ。アイツ、独裁者?」
 街は荒れた。紙が紙をやぶる。紙が紙をつぶす。乾いた街。ぺらぺらの人形。
 
「もう、いい。やめた」
 ある日、誠くんは叫んだ。
 誠くんは、自分が作った紙の街と人を、自らの手でぐちゃぐちゃにした。爆弾を落とすように踏んづけ、丸めて、ゴミ箱に捨てた。
 僕もゴミ箱に捨てられた。誠くんのお気に入りだったのに。
 ゴミ箱の中で、僕は耳をすませた。
「ママ、僕、明日から学校に行く」
 誠くんが言っている。
「あら。じゃあ、準備しようね」
 ママの明るい声がする。
……なんだよ、それ。
 僕はゴミ箱の中でつぶやいた。
……理想の世界を創るの、諦めちゃったのかよ。
 そして、笑った。ゴミ箱の中で、僕はカサカサと笑った。
 ゴミ箱の中にはつぶれた紙飛行機もあったから、僕はそれに乗って飛んだ。空まで、飛んだ。
 そして、僕は、空から誠くんを見た。
 今度は、僕が誠くんの世界を動かそうかな。
 僕の名前はスーパー、人間が作った、かみ。
 

 (本文:1,198文字)

  
 
初参加させていただきます。
テーマは『紙』
800~1200字
#秋ピリカ応募




 

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