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衣食住と商い。

知り合いでもそうでなくても、誰かの「少し風変わりな職業あるある」みたいな話が好きで、身を乗り出してしまうところがあります。

先日、久しぶりに会った方が「今、陶器の干支置物などの絵付けの仕事をしている」と仰るので、職場の様子や置物が出来るまでの工程について質問攻めにしてしまい、「私は、単なるパートのおばちゃんだから」とか「とにかく狭くて汚い場所でちまちまやってるし〜」と、こともなげにに仰るんですが、郷土玩具や置物、縁起物など好きな私としては、好奇心が止まらず根掘り葉掘り。

今までも、〈古いアパートの一室で「人体模型の制作」を一人でしている方〉や、〈人里離れた土地の倉庫が作業場で、大きな鍋や不思議な道具に囲まれ、化粧品の有効成分となる魔法の水を作り出す研究者のおじいさん〉の話に食いついたり、自分が数年おきに見てもらっている四柱推命の鑑定師さんにも興味津々で、占いそのものが目的というよりは、戦災孤児だったと仰るその方が何十年も神社の境内の外れの小さなテントで多くの人の運勢を見てこられて、夏も冬も休みなしにパイプ椅子に座って並ぶ人たちに励ましの言葉を与え、その収入で息子さんを大学に行かせたという、その方の人生積み重ねそのものが語り口に滲み出ていて、とはいえ仰ることは年長者の普通のアドバイスが多いのだけれども、いちどNHKの『72時間』か情熱大陸で密着してくれないものかと思うほど、風変わりで味わい深いです。

そんな私は、江戸の風俗絵などを見たりする時も、物売りなどの生き生きとした様子に興味がいくのですが....ここにも、手相を見ているらしき人が(国立国会図書館蔵『江戸年中風俗絵』デジタル資料より)。

以前、取引先の紙雑貨の会社が海外での「京都物産展」に出店されるにあたり、私が「グリーティングカードの実演販売」を担当することになって現地の百貨店へ行ったところ、江戸期創業の老舗がたくさん出店されていて、百人一首や数珠、お香のお店の他に、上の絵にもあるような『筆屋さん』もご一緒したのですが、最終日に在庫商品を航空便で日本に送る段取りに手間取っていた私(普段デザイナーなので販売や梱包には全く不慣れ)の他に、もう一人、筆のお店の女性社長さんが商品の箱(筆なので量は少ない)と書類を見比べ困っておられて、何事かと事情を聞くと、「どうしましょ、ワシントン条約の関係で、どの筆がなんの動物の毛か、英語で書かないといけなくて...」との事でした。イタチとテンの違いがどうの、と仰っていたような...

困っておられる隣で失礼極まりないのですが、「へぇ〜、そんな〈職業あるある〉があるのか」と、やはり身を乗り出してしまったのでした。

その物産展で、私は和紙や千代紙などで作ったカードに舞妓さんの絵や干支動物の乗った宝船を描いたりして、実演中は子供達に囲まれ一挙一動を真剣に見つめられて、仕上がったものを購入するお子さんからは直筆のサインを求められ、絵巻でいうと下の画像の物売りのような、ひととき子供の人気者っぽくなったのでした。

同じく国立国会図書館のデジタルデータで見つけた大正時代の『新帝都看板考』には江戸期の風合いも残しつつ現在にも近所で見かけるような看板のイラストが載っていて、見ているだけで「商売って色々だなぁ」と思います。

他にも「職業」に関する『万民応用 実業秘術全書』という愉快な本(同じく国立国会図書館蔵)。「銭(かね)なくして十分暮らす法」だの、「毎日金銭に困らぬ法」などという目録に惹かれて読み進めると、前者の答えは「新聞配達などすべし」、後者は「常に倹約を第一とし主人の稼ぎを少し残し妻は小商いなどすべし」みたいな内容で拍子抜けですが、明治27年にこの様な読み物が求められていたのかと思うと面白い。

その本の中に、「妙な商法」「奇な商法」「をつな商法」「きてれつな商法」「なまけ者にもっともよき商法」「出たらめで銭を得る法」などの妙な見出しが載っているのですが、最後の「出たらめ〜」は「道路の易者などの中で易経を読めず思想学もろくに読めず天地陰陽窮理を知らず本のでたらめにて解釈し銭を得る人」としている一方で、「上等の易学者などには随分良き人あるなり」としているので、私が数年おきにみてもらっている鑑定師さんは後者だろうなと。ただ、万一「出たらめ」なやり方の占い師さんだとしても、それを50年以上続けたら「上等」以外の何者でも無いですが...

再び江戸期に戻り、『衣食住諸職絵解錦画』には、子供らが遊び、家事を手伝う様な場面も幾つかあり、職業は「稼ぐ」手段としてではなく、「暮らしの一部」だと、皆が朝から掃除をしている最後の一枚が語っていました。そりゃそうだ、家事の中にある「繕い物」も仕事だし、「新聞をとってくる」のも仕事なのだなと。仕事で儲けるとか成功するとか、そういう以前に、朝起きて夜寝るまでに今の自分の丈にあったことをする、働ける人は働き、そうでない人は勉強なり用事なり手伝いなり、病気の中にある場合や老いた時はその人がその日できる勤めをそれぞれすることが生活なのだなと。

ぽっかり1日時間が空いたので、国会図書館のサイトで昔のひとの暮らしに思いをめぐらせた今日でした。(著作権保護期間満了の画像は転載可能だそうです)

ヘッダーは、私の理想の商売の形です(モノを作って並べて売り歩き、途中でサボる)。