見出し画像

時を閉じ込めたノートの話。

前回の続きで、いま私は大阪・阿倍野にあった喫茶店『力雀』(かつては『雀』)さんに置かれていたお客さんノート44年分(残念ながら途中に欠番あり)の修繕&読み返しをしている。

使われた大学ノートの大半は「中綴じ」タイプで、経年劣化によって糸がプツプツと切れて、表紙と本体が完全に分かれてしまっているものが多い。書き込むだけでなく、届いた手紙や商品タグなども貼ってあり、それらの多くが外れてバラバラになっている。

まず表紙の保護用の透明カバーを市販のB5用クリアカバーに付け替えて、挟まれていたチラシ類(劇団の物や博覧会、展覧会のDMやお菓子のパッケージなど)をポケット部分に収めたり…

画像2

バラバラになったノートを手持ちの糸で綴じなおして、閉じた部分を両面テープを貼った紙で保護して、表紙とは縫い付けたり糊で接着したりせず、タコ糸で結ぶだけでいつでも外せるようにした(表紙保護と後でスキャン等しやすいように)。左右のページが完全に破れて切り離されたものは別の紙で中央をつなぎ直してから閉じたり、状態が悪いものはパンチで端に穴を開けて紐で閉じたりしつつ(大事な資料なのに穴を開けてすみません)、できるだけ元の状態を生かして時系列で閲覧できるように。

画像3

ページから脱落している手紙類(エアメールやグリーティングカード、数枚の便箋や写真入りの封筒など)や、新聞の切り抜きや手土産の包装紙の一部などをとめたテープが経年劣化で剥がれたものは同じページに貼り直し、どこにあったか不明なものは、テープの糊がノートと紙類にそれぞれ残ってシミになっているので、そのシミ同士をパズルのように組み合わせて貼り直し、それでも不明なものは年月日に合わせてページの余白に貼るなどした。

画像4

さて、ここから本題。上の写真の右の172号は、お店にとって最後のノートで、40ページ余りが未使用になっている。左の171号は手紙やパンフレット的なものが貼られている関係で本来のノートの3〜4倍ほどの厚みになっているので、並べると172号の薄さが際立って寂しい。

実は、手元にあるすべての大学ノートを補修してみて、途中欠番が結構あることに気づいた。今後、一時保管場所を再訪できる時期が来たら(今、緊急事態宣言が出ているエリアなので)確認しに行くつもりだけれど、もしかすると、いずれかの時期に紛失したのかもしれない。

1.雀さんが2012年ごろ、すべてのノートをDVD化するつもりで依頼しておられた(多額の費用をかけたにもかかわらず、結果的にその企画は実現せず、残念な結果に終わった)関係で、ノートを第三者に(スキャンや撮影用に)貸し出したまま戻ってこなかった?

2.雀さんをお見送りした日、その場に居合わせた有志の方々がお店を訪れて大切なノートや写真ファイルを別の場所に一時保管した際、人数も少なく短時間でのことだったため、また、急なお別れだったことでどなたも平静ではなかったこともあり、他の場所に紛れていたノートを持ち出すことができなかった?

3.一時保管場所に取りに私が何度かに分けて行った際、その建物を管理している方に気遣って短時間で運ぼうとした結果、ダンボールに入るものだけを急いで入れたので、見落としがあってまだノートの一部が残っている?

このうちの3以外なら、もう取り戻すことは出来ないだろう。前回44年分の、と書いておきながら、合間に抜けがあることに気づいて愕然としたし、しかも気づくのがこんなに遅くなってしまって、雀さんに申し訳なく残念に思う。ただ、形あるものだけが全てではないと思いたい。世の中には震災や台風、豪雨などで思い出の品をなくした方は多く、戦争で何もかもなくしてしまった方もたくさんおられるだろう。

知り合いのお寺さんがよく、「亡くなったからといって、いなくなるわけではないです」とおっしゃるのだけれども、それは人に対してもそうだけれど、物に対しても、「なくなったからといって、何もかも消えるわけではない」ということかもしれない。空白の部分は、自分や誰かの心の中にはあると信じて、作業を進めたい。

ただ、その一方で私は最後のノートに関しては、これからでも書き込める(作れる)のではないかと思っている。

時代ごとの、あるいは長年にわたってお店や雀さんと関わり続けた常連さんも、あるいは一度しか訪れたことのない人も、等しくあの小宇宙に同席した人(ノートに一度も書き込まなかった場合も)だと今、読み返していて強く思うので、この記事を目にされた方で、お心当たりの方はご協力をお願いします。(10.3追記)お陰様でこちらのページをご覧になった方がお手紙をお送り下さいましたので、ZINEの後半の方のページに掲載・ご紹介させていただきます。ご協力に心から感謝します。

suzumenote_onegai_アートボード 1

suzumenote_onegai_アートボード 1 のコピー

画像6

制作するZINEは、ノートに書かれたことを一部引用、紹介しつつ、お客様の権利やプライバシー、著作権などを侵害しないよう、大切な思い出やお気持ちを損ねぬよう、できる限り配慮したいと思います。

その上で、秋以降に雀(力雀)ノートの現物を展示会の場で全て閲覧可能な状態にして、今後、これらの資料の管理や扱い、保存法について広くご意見やアイデア、ご希望などを承りたいです。

(10.3追記)展示会が決定しました。詳細はこちらで。

なお、資料が私の手元にあるのは11月23日までとなりますので、このページの内容の有効期限も2021年中とさせていただきます。どうぞご了承ください。