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2コマ進む。

子供の頃、雑貨を扱う店に行くのが好きだった。サンリオなどの文具を売る店やソニープラザはもちろん、年齢不詳のマダムが大人向けのレースのスリッパや手鏡、猫のブローチなど非実用的なものばかり売っている店に意を決して入ることもあった。

思春期以降にも様々な店に興味を持ち、チープでキッチュな雑貨やレトロな駄菓子やおもちゃを扱うお店、不思議の国のアリスをイメージしたレースやピンタックがあしらわれた洋服や小物を売るお店、自分ではまったく買うあてのないステンドグラスのお店、北欧系の家具や国内外のアンティークやヴィンテージを扱うインテリア店…こんなので商売が成り立つのかと心配になるような品揃えの薄い店などにも、こわごわ、でも果敢に挑んで中に入ったものだった。

何を探しているわけでもないけれど、いつも何か変なもの、素敵なもの、とにかく未知なのにどこか懐かしいような、ワクワクする何かとの出会いを求めていたものだった(書店も同じくらい好きだった)。

とはいえ、【ソニープラザ】や【大中】などのお店は別にして、10代の頃の私は一度入った(足を踏み入れてしまった)店を、「買い物をせずに出る」ことがとても苦手で、個人経営の店主(または店員さん)との間の見えない空気に敏感すぎるせいなのか、そこを訪れた以上は「その行為と時間を無駄にしないために、何か一つ持ち帰って自分の生活に加えなければもったいない」という不思議な責任感のようなものがないまぜになって、何か「買えるもの」を時間をかけて必死で探すようなことも多かった。

大人になって(特に雑貨のデザインやイラストの仕事をするようになって)からは参考資料を探すことが増えて、雑貨店めぐりは仕事モードになってしまい、ワクワクセンサーがあまり働かなくなってしまった。ネットで何でも探せて買える時代というのもあるかもしれない。

それでも先日、中野ブロードウェイで、各地の駅弁の包み紙をひたすら並べて一枚300〜500円程で売っているショーウィンドウを見て、「何でこんなもの〜」と苦笑しつつ少しワクワクした。

他にも切手専門店で「どれでも10枚で300円」という使用済み切手の山を見つけ、何気なく掘り起こし始めたら止まらなくなって、店主が閉店準備でシャッターの鍵を手にこちらを見ているのは分かりつつ、私は「素敵な切手」を探した。でも、どう探しても欲しいと思う切手は一枚だけしかなくて。閉店間際なのだから、さっさとその1枚を諦めるか、適当に残り9枚を選べばいいのにその場を立ち去ることができなくて。

ついに私が「あのー1枚しか(選べなくて)」というのと、店主が「いいですよ」と答えるのがほぼ同時で、愛想良くもないが不機嫌でもない様子で、30円で売ってくれた。子供の頃とは違い、今は買い物をしなくても店を出られる私だけれど、この時ばかりは粘ってしまったので「何か買わなきゃ出づらい」というプレッシャーを久々に味わった。焦って選ぶ、ヒリヒリする感じを私は久しぶりに堪能したのだった。

さて。前回の「1コマ進む」でも書いたのですが、私は今年中に新しい仕事場の一角に、自作のおみくじやポストカードその他些細なものを並べるショップをオープンする予定で、「どういう店がよいだろうか」と考えた時に、子供時代の自分と今の自分双方の意見を反映させたいのです。

まず、買わなくても立ち去りやすい店、またフラッと行きたくなる店というのを目指して、形態としては「ギャラリーショップ」にしてみる。

ただ、休憩所ではないのだから、入る時に少し緊張感と冒険心が必要な店+何も買わずに立ち去るのは気がひける要素をもたせたい。気がひけるというのはマイナスの意味ではなく、「心残り」を与えるような、素通りできない何かちょっと引っかかるものがある、という意味ですが。

お店のことを思い立った頃、まず読んでみたのが、様々な小商い(焼き芋店、多肉植物販売、弁当箱店、作家・職人兼ショップ運営など)の形をざっくり紹介しているこの二冊でした。『京都の小商い』(鈴木雅矩/三栄書房)と『小商いのはじめかた』(伊藤洋志 監修、風来堂 編/東京書籍)。

開業資金や初期投資など、想像しているよりどなたもこじんまりしており、1万円〜20万円くらいで始める方が多く、how toより「やる気になれば、どうにでも出来る」ということかなぁ、と気分が軽くなります。

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この本にもあるように、大事なのは「シンプルで身の丈にあった」もので、何より作品(商品)が「いい感じ」かどうか、ですね。なのでこういう記事を書くことで予定を実行に移すと同時に、ヘッダー画像に載せるのを兼ねてポストカードやその他の雑貨にする絵柄候補を作ってゆきたいです。で、今回は黄色いものたちへ敬愛の情を込めた一枚を。

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【お店のイメージ:その1】

1.何も買わなくても立ち去りやすく、またフラッと訪れたくなる気楽さのある店にする。

2.入るのに少し勇気と冒険心がいり、何も買わずに出ることには少し引ける(気がする)店にする。

矛盾しているようだけれど1と2がうまく融合したお店が良いなぁ。あまり〈誰もが親しみやすく入りやすいお店にはしない〉というのは大事なポイントなのですが、またその点については次回に。