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わたしはいま、失っても泣かない

あ、と気づいたときには、「もうダメだ」と理解していた。

左耳のピアスがない。
出掛けるとき以外はいつもつけていた、セカンドピアス。
これがないと、左の穴はすぐに小さくしぼんでしまう。

耳につけようとして、落としてしまうことは何度もあった。
でも、「翌日に気がついたらなくなっていた」というのは、これが初めてだった。
右耳は、残っている。

落としたのか、落ちたのかもわからない。
同居人に「落としたの?」と尋ねられたけど、落としたことに気づいているなら拾っている。

なくなっていた。

その言葉が、ぴったりだった。

ピアスを初めた開けた夏、「セカンドピアス」というものが必要だと学んだ。
病院でファーストピアスを打ち込まれたあと(ほんとうに言葉通り、バチンと打ち込まれた)、1〜2ヶ月放置。
その、ファーストピアスを外したあと、更に1ヶ月。
つけっぱなしにするのがセカンドピアスだった。

今でこそ大きなトラブルはないけど、子供の頃はアトピーがひどかった。
「わたしは、肌が丈夫ではないかもしれない」という不安から、”きちんとした”セカンドピアスを買うことにした。
たしか、7000円くらい。
同居人に買ってもらった、小さなピアス。

「なくしてしまってごめん」と告げたけど、不思議とあんまり寂しくなかった。
ピアスを開けたのは、2018年の夏。
消えてしまったセカンドピアスとは、ずいぶん長いときを過ごした。
然るべき、お別れのときがきたんだ。

それでも、「つけっぱなし用のピアス」が必要なことには変わりないので、すぐに新しいものを探した。
運良く、今日までピアスに於けるトラブルがなかったわたしが選んだのは、小さなハートの800円のピアスだった。
いまのわたしには、それがよく似合う気がした。

なくしてしまっても、わたしは泣かない。

すべてが悲しかった、あのときとは違う。
まだまだ寂しい”終わり”や”別れ”もたくさんあって、それらを失うべきとは思わないけれど。
たまにはこうして、勇ましく歩みだしたっていいじゃないか。

わたしはいま、ずいぶんすこやかな気持ちで、ハートのピアスをつけている。



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