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【元アニメ業界の人間が解説】アニメの監督って何の仕事をしているの?

監督業ってありますよね。実写の監督はあまりよくわかりませんが、アニメの監督が何をやるのか、ざっくりとご説明をしたいと思います。
(ただ私自身は制作サイドの人間だったので、その視点から見ていることをご容赦ください)

よく宮崎駿監督の密着ドキュメンタリーとか見ている人が多いのではないでしょうか。宮崎監督はアニメーターとしても有名ですが、キャリアの途中で監督になり、現在に至っています。ですから、宮崎駿さんは絵がうまく、手も早かったのです。宮崎さんが机に向かって描いている姿を見て、アニメーターのように絵を描くのがアニメの監督だと考えている方もいるでしょう。この辺りは実は微妙です。

オーソドックスなアニメの監督の仕事はだいたい以下のようなものです。

①スタッフの座組をプロデューサーと一緒に考える

多くの場合、プロデューサーが監督を指名し、監督がプロデューサーと相談をしてメインスタッフを決めます。メインスタッフはだいたいオープニングに名前が出る人たちと覚えていただいても問題がないでしょう。シナリオライター、コンテマン、演出、色彩設計、美術監督、音響監督、撮影監督、編集です。多くの場合、プロデューサーは社長や会社員なので、その会社の社員をスタッフとして使う場合があります。またプロデューサー、監督がフリーランスの場合、メインで協力をしてくれるスタジオのスタッフを主に使う場合もあります。ですので、発言力は実はケースバイケースだったりします。(最近は監督も社員化をしているのかもしれませんが、よく監督が会社をつぶすことが昔はあったようです。そういうことがなぜ起こるのかというと、外部の有名な監督を招いたはいいものの、暴走してしまい、予算を使い切って倒産するというパターンがあるそうです。)

②シナリオをライターと一緒に考えるor自分で書く

アニメでもシナリオは重要です。シナリオの場合は変更や修正が簡単にできるので、その点は楽なのでしょう。監督の要望をシナリオライターがくみ取り、シナリオを作ります。今だと小説や漫画原作が多いので、まったく何もない状態でシナリオを作る仕事は珍しいといえるでしょう。シナリオをまっさらな状態から作る場合はプロデューサーと監督、メインスタッフでシナリオハンティングなどをやったりするかと思います。実はアニメの作り方はあってないがごとしなので、原作が決まっている場合は原作準拠でシナリオを作る傾向があり、そうでない場合は、監督とシナリオライターが協力してシナリオを作成する傾向があるでしょう。作品によりけりです。最近では監督がシナリオライターを兼任する場合もあります。まあその理由は察して頂ければと思います。

③コンテマンと打ち合わせをして絵コンテを発注する

シナリオが出来上がりました。アニメは絵が大事なので、次は絵コンテを発注します。絵コンテを見ながら演出は指示を出し、アニメーターは絵を描くので、これはとても大事なものです。実はいけないことなんですが、使い終わった絵コンテはまんだらけとかでも売られていたりするので、実際に手を取ることは可能ですし、有名監督の絵コンテは本として販売されていたりします。さて、この絵コンテも監督が自分で描く場合もあれば、ほかのコンテマンにお願いをする場合もあります。監督がみんな絵を描けるわけではないので、これは仕方がないことです。最近アニメーター出身の監督さんが活躍されていますが、彼らの中では時間さえあれば、自分で絵コンテを描く人も多くいます。

④出来上がってきた絵コンテをチェックし、修正をする

さて、自分で描いた絵コンテならチェックは不要ですが、コンテマンさんが描いてきたものですとチェックが必要です。アニメは映像作品なので流れが大事なので、この流れで大丈夫かどうかをチェックをして、カットの秒数などにも手を入れたりします。また必要な絵が入っていない場合は自分で描いて埋めたり、ほかのカットから切り貼りで持ってきたりもするでしょう。まるまるワンシーン切り飛ばすこともあれば、追加することもあります。そのあたりはやり方の問題なので、監督の個性が出るのかもしれません。絵が描けない監督でもこの時ばかりは棒人間のような絵を描きます。コンテは視線とキャラと芝居内容がわかればいいのだ、と考える人もいますが、最近ですとアニメーターの人は某人形ではなくて、きちんと絵になっているうまい絵コンテの方が作業しやすいと思う人が多いようです。

⑤キャラクターデザイナーと打ち合わせをする。小道具なども発注をする。

キャラクターデザインの人がいます。略してキャラデです。多くは作画監督や総作画監督として参加をしたりします。ですが、準備段階やキャラクターデザイナーとして活動する場合は、監督とまず打ち合わせをして、監督の要望通りのキャラクターを作成します。漫画原作の場合は監督だけで判断ができないので、漫画の原作者や出版社の確認を取ったりします。昔は原作があっても原作を無視してアニメを作ることができましたが、昨今は原作者や出版サイドの方が力関係的に上のことが多いので、きちんとこの辺り了承を取ることが多いようですね。

⑤演出と打ち合わせをする。色彩設計、美術監督と打ち合わせをする。

演出という人がいます。別名「処理」といわれたりするのですが、絵コンテ通りに作品ができているか確認するのが仕事の人です。この人は監督のように全体を確認するというよりは、自分の受け持ち範囲がきちんとできているか、を確認するのが仕事です。アニメーションはカット単位で作業をします。1カット1カットきちんと演技ができているか、キャラクターは間違えていないか、前後のつなぎはおかしくないか、秒数の範囲で収まっているか、素材が全部きちんとそろっているか、などなどです。間違っていると判断をしたらリテイクを出したりします。さて、その演出も勝手にやってよいのではなく、監督と絵コンテができた段階で打ち合わせをして、その後、監督の仕事を代行して、きちんと絵コンテ通りの芝居になっているのかを1カット1カット見ていくのです。また同じようなメインスタッフに色彩設計、美術監督がいます。色彩設計はキャラクターの色を作る人、美術監督はシーンごとに背景を描く人です。キャラクターと背景は合わさったときに、きちんと同じような世界観を構成できているかが重要です。だいたいはどちらかに合わせて色を決めていきますが、その采配を振るうのも、監督の役割です。監督はこのシーンはこれくらい明るくしてほしい、暗くしてほしいなどイメージを言ったりします。そのイメージに合わせて、美術監督さんや色彩設計さんはキービジュアルや色見本などを作っていきます。

④カッティング、アフレコ、ダビング、編集などの音響周りや編集の作業の立ち合い

さて、アニメは当然ながら音楽や音が絡みます。ざっくり言えば音響監督さんはこのあたりを仕切る人だと思います。音響監督さんが自分のスタッフを使って、声優事務所に声をかけたりすることもあるでしょうし、アフレコをするときのスタジオを抑えたりしています。また主題歌やシーンごとの音楽を作る打ち合わせも必要です。今は主題歌とかはプロデューサーサイドで決まることもあるため、監督の権限が及ばないこともあると思います。さて、監督はそのような音響監督さんともうまく人間関係を作り、一緒にアフレコやダビングという作業に入ります。演技指導はだいたいの場合は音響監督にお任せだったりします。そして最後は編集さんと一緒に作業をして、その出来栄えに唸ったりします。

だいたい以上な感じだと思います。

さて、こう見てきていかがでしたでしょうか。アニメのお仕事は集団作業ということがわかっていただけたのではないでしょうか?プロデューサー、監督、メインスタッフ、さらにその下に協力会社とそのスタッフ、さらにはその下の動仕会社があり、一つの作品を作っています。ジブリのようなスタジオは違うかもしれませんが、必ずしも皆が一緒の場所で作業をするわけではありません。作業をする人の技術力もまちまちですし、意識なども変わってくるでしょう。末端に行けば緩くなることも仕方がありませんが、アニメ作品は統一的な世界観で作られていないとおかしくなります。勝手な作業をすると嫌われます。監督とは一つの意識を作品全体に貫徹するためにダメなものはダメ、良いものは良い、と判断するのが重要な仕事です。作品としてのまとまりを生み出すため、そして見る人が楽しめる作品を作れるように監督は今日も監督業を頑張ることでしょう。


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