見出し画像

【俳句振り返り】肉まんの作り方【危険:9700字あります】

みんなの俳句大会 沙々杯。
運営やスタッフのみなさんお疲れ様でした。
そして投票に参加した方も、選ぶのがとても大変だったことでしょう。
本当にお疲れ様でした。

今大会で私が投稿した句がこちら。

この句は大会の決勝ラウンドに進出しました。
500を超える句の中で7句だけが行きついた栄冠です。

さらに審査員の白さんから審査員賞を、
そして、とのむらのりこさんの私設賞もいただきました。

さて、私がこの記事を「肉まんの作り方」というタイトルで投稿したのは他でもありません。

私はこの句を、自ら立てた仮説に基づいて理詰めで作りました。
そしてその理屈を言語化して共有する準備があります。

私は理屈で創作をおこなうタイプの人間です。

どうしてこの表現をしたのか言語化できること。
一度きりの偶然でなく任意に扱える技術であること。
共有すれば他の人にも真似できること。

そういうものを良しとします。

私は自分の才能やセンスというものを信じていません。
自分よりも優れた才能を持つ人間は身近に数えきれないほどいました。

才能あふれる人たちがキラキラと輝く様に嫉妬して涙を流したことは一度や二度ではありません。

だからこそこの記事を、
才能やセンスに恵まれなかったと泣く方たちに捧げます。

どうか創作を諦めないでください。

大会用の俳句を詠む手順

作業は3つの段階に分けられます。

大会や自分の分析をおこなう段階。
分析をもとに作戦を立てる段階。
そして作戦をもとに句作する段階です。

<分析をおこなう段階>
1.目標を立てる
2.目標を達成するために必要なものを考える
3.自分に足りていないものを洗い出す

<作戦を立てる段階>
4.足りていないものを埋めるための工夫を考える
5.目標達成にさらに近付くための攻め方を考える

<句を作る段階>
6.句の狙いを決める
7.分析や作戦をもとに組み立てる
8.納得いくまで詠む

分析1:自身の目標はなにか?

私は沙々杯に参加するにあたり、決勝ラウンド進出を目標に掲げていました。

「みんなの俳句大会」は、note上で季節ごとに開催されるユーザー企画の俳句大会です。

この大会の大きな特徴は、
「参加者の投票で頂点を決める」
という点にあります。

誰でも投票ができるので俳句に詳しくない人の評価も結果に大きく影響します。

みんなの俳句大会とは、
俳句の偉い先生に向けて披露するのではなく、
俳句に詳しくない人も含めた「みんな」に向けて披露する場なんです。

これから紹介する作戦やノウハウは、このことを前提にしています。

目的とロジックは常にセットです。
もしも目標が「俳句の先生に褒められたい」だったら、全く異なる作戦で全く異なる句を詠むはずです。

そして私がすべき最初の作業は、
「決勝ラウンドまで行くにはなにが必要なのか?」
について分析することでした。

分析2:身も蓋も無い話ですが

身も蓋も無い結論を先に言います。

決勝ラウンドに行くには、
俳句に慣れている人と俳句初心者の両方から愛される句が理想です。

身も蓋も無いですよね。
それができたら苦労しないって話ですよね。

でもこの身も蓋も無いことについて理詰めで考えると、作品のクオリティが向上します。

そもそも私がこの結論に行きついたのは、
前回大会の敗北がきっかけでした。

分析3:敗北の分析

前回大会で私が詠んだ句はこのような句です。

AIの長考二秒星飛べり

まず良いところから紹介しましょう。
この句には2つ長所があります。
それは、

  • 「AIの長考」というフレーズが独特で目立つ

  • 「二秒」などのワードを手掛かりに想像を広げると面白い

という点です。

独特で目立つことは、参加者の多い大会ではとても有利に働きますよね。
無数の句の中からこの句が予選ラウンドに進出できたのも、その独特さが手伝ってのことと想像できます。

そして、想像を広げる余地のある句は俳句の鑑賞に慣れている人の評価を得やすいです。

書いてある言葉だけで完結しない俳句。
そこからさらに想像が広がって、書いていないはずの風景まで見えてくる奥行き。
その奥行きを出すには技術が必要で、だから評価につながります。

しかしこの句には欠陥もあります。
それは、俳句の読解に慣れていない人が楽しみにくいことです。

ぶっちゃけ俳句初心者じゃなくても鑑賞しにくい句です。
「よくわかんない句」と処理されかねないので、これは投票においてとても不利です。

そういうわけでこの『AIの長考』の句は、

自発的に深く読解してくれる人の票は得られたものの、
初心者からの票は集められなかった。

……というわけなのです。

補足:ダメな句というわけじゃない

一応補足をしておきますが、私の詠んだ『AIの長考』の句は決してダメな句ではありません。
先に挙げたとおりちゃんと長所を持っています。

予選ラウンド進出は果たしていますし、うつスピさんの私設賞もいただけて、ちゃんと活躍できる句でした。

それだけの結果を出している以上、ダメな句と断じることはできません。
時と場所が違えばさらに上の評価も得られたかもしれません。

ですが「みんなの俳句大会の決勝ラウンドに行きたい」という目標とはズレがある句です。
そこに反省点があります。

どれだけ素晴らしい句を詠んだとしても、果たしたい目標とのズレがあってはその力を発揮しきれません。

目的を果たすための作品になっているか?
という評価軸で見ること。
それが理詰めで考える際には必要です。

作戦1:弱点を埋める

『AIの長考』の句には初心者票を集めにくいという弱点がありました。

これはこの句だけの弱点でなく、
独りよがりな表現をしがちな私自身の弱点と言えました。

なので私はこの弱点を消すことを最優先の課題に置きました。

弱点だから対策するのではありません。
弱点が目的を果たす上で邪魔になるから対策をします。

目的の邪魔にならない弱点なら手当ては後回しで構いません。
むしろ影響が少ないなら放置することをおすすめします。

私の場合は絶対に対策が必要なので優先度を高く置きました。

具体的には、
想像を広げなくても意味や光景が十分に伝わる
そんな句であることを最優先事項としました。

視覚的な句

みんなの俳句大会では3句まで投稿できます。

私が沙々杯に投稿した3句は以下の句です。

肉まんを分ければふたり分の湯気
初もうでデビュー間近のバンドの子
白鳥は湖面に映る空の雲

これらの句には共通した工夫があります。
どれも視覚的な情報を与えていることです。

ふたりの人がいて、肉まんを分けており、その肉まんから湯気が立っていた。

初もうでに来ている人たちの中に、バンド活動をしている人を見つけた。

湖面に空が映っており、白鳥がまるで雲みたいに見えた。

このように視覚に関する主要な情報は句の中に書かれています
深読みをしなくても光景を思い描きやすいのです。

これは「わけわからん」を回避するための策です。
ですから防御的な表現技法と言えるかもしれませんね。

鮮烈な表現で人気を集める攻めの表現に対して、
読者層を狭めないための守りの表現ということです。

なお、この守りの手法はなにも視覚情報にこだわる必要はありません。

別の感覚を刺激するのも手ですし、
あるいは感情に着目して一目で感情がわかる句にしてもよいでしょう。

私の場合は視覚情報を使うのが肌に合っていたのでそうしました。

平易な言葉

聞き馴染みのない単語は「わけわからん」の種になります。
辞書を調べればわかるにしても、それって結構面倒なんですよね。

だから難しい単語を使わないことも自分に課しました。

これは作戦であり、そして私の好みでもあります。
日用語だけで表現をすることを私はとても好いています。

私の3句で最も難しい単語は「湖面」です。
そういうレベルで簡単な語しか採用していません。

なるべく伝わりやすい言葉を選ぶ、というのは守りの戦略として重要です。
たとえば記事を書く仕事のライターさんもそのようなスキルを求められるようです。

まあ、それにしたって私のはやりすぎですけどね。
もうちょっと難しい単語を使っても大丈夫です。

私は平易な言葉だけで表現するのが大好きで慣れているので、極端なことをあえてやっています。
本来ここまで極端にやる必要はありません。
私は好きだからやりました。

さらに口語を徹底し、文語を避けることまでしています。

一応、俳句に詳しくない人が誤読する可能性を潰す狙いがありました。
「や」「かな」「けり」という俳句ではお馴染みの切れ字も文語的表現なので意図的に使っていません。

と言っても、本当は文語を使っても問題ありません
私は念には念を入れて誤読の可能性を徹底的に潰しにかかったので、そういう極端な方策を取っただけです。

でも、誤読の可能性を意識することは文語の俳句を詠む上で大切だと思います。

作戦2:想像の引き金になる言葉を入れる

さて、ここまでの作戦で初心者票を集める準備は整いました。
「深読みしなくても意味がわかる・光景が浮かぶ」
というのが初心者対策でした。

今度は俳句の鑑賞にある程度慣れている人を狙う作戦も立てます。
最初に言ったとおり、双方から好かれるのが理想ですからね。

具体的な作戦としては想像して楽しむ奥行きを作ります

俳句は17音しかないため、入れられる情報量がかなり制限されています。
よって文字に書いた光景だけで完結してしまうのは損です。
そこからさらに想像が広がるような仕掛けを施すことで、17音以上の広がりを俳句に持たせられます。

想像を広げる引き金。
それを作るには以下のことを意識すると良いです。

  • 断片的な情報を与える

  • 細部を見せる

  • 全体像を限定する

初もうでの句の例

今回の私の句では、
初もうでデビュー間近のバンドの子
が例としてわかりやすいと思います。

想像を促す工夫。
それはもちろん「デビュー間近のバンド」という情報です。

細部を見せることによって、初もうでの具体的な光景を想像するよう誘導しています。

デビュー間近という情報があるおかげで、
どんなことを願っているか想像しやすいですよね。

肉まんの句の例

肉まんを分ければふたり分の湯気
こちらの句でも想像を促す工夫が入っています。

「ふたり」がその一つです。
これは人数を限定しています。
それでいて断片的な情報でもあります。

「ふたり」としか言っていないので、どういう関係なのか明示されていません。
なので受け手は想像を広げようとします。

そして「ふたり」と人数が限定されているので、恋人や夫婦などの可能性が高そうだ、と解釈は誘導されます。

あらゆる可能性が存在する状況では想像は広がりません。
具体的な情報によってある程度選択肢が絞り込まれることで、想像は広がります。

またこの句は「湯気」と体言止めで終わることで、湯気の形を想像させようとしています。
そのために「ふたり分の湯気」という曖昧で断片的な情報しか与えていません。
ここにも誘導があります。

作戦3:目立つための工夫

何百という句が集まる大会では目立ちやすい句を詠むことも戦略になります。
しかし『肉まん』の句は『AIの長考』の句ほど目立ちません。
なにせ平易な言葉しか使っていませんからね。

それでも最低限の仕掛けは施してあります。

それはこの句が「底抜けに明るい句」だということです。

冬は厳しい季節です。
寒いです。自然も静けさや荒れた雰囲気を持ちます。
冬の季語はそんな厳しいイメージを含んだものが多く存在します。

ですから俳句に慣れた人が冬の季語を選ぶと、底抜けに明るい句にはしづらくなります

季語は俳句の主役なので主役を立てれば立てるほど明るくなりきれない……そういうことが予想されました。

だからこそ明るい句を詠むことで差別化ができると考えました。
周りとは違う雰囲気を持った句が結果的に目立つという作戦です。

明るい句は予選にそこそこ上がってきましたが、それでもブロックの振り分けの運にも恵まれ、ある程度この作戦は通用したように感じます。

でも運任せが過ぎるので、魅力的なフレーズを発明する王道の方向で努力した方が無難だなって思いました。

季語選び

「底抜けに明るい句」のためにどのような工夫をしたのか。
一応そこについては少し解説をしておきましょう。

私は大会に出す3句を考える際、最初に季語の選定をおこないました。

先述のとおり冬の季語は厳しい気候のイメージを含んだものが多くあります。
それらを選んでしまうと「底抜けに」とはいかなくなります。

だから明るいイメージだけが伝わるような季語を選出するというのが私の最初の作業でした。
また、俳句に慣れていない人にも視覚的な情報を思い浮かべやすい季語であることも意識しました。

私が最初に考えていた季語は「おでん」でした。

温かい食べ物を出せば明るい句は詠みやすいです。
なのでおでんを始めとして、食べ物系の季語はかなり検討しました。

そして色々な可能性を検討するうちに、肉まんが浮かんできました。

肉まんの強いところは「はんぶんこする」というイメージがあることです。
そのイメージを多くの人が持っています。
それを上手く活用してやれば、俳句初心者にも伝わる句になりやすいはずです。

このように詠みたい句のイメージに合致した季語を選ぶことが大切です。

余談:季語の扱い方について

実は肉まん、まだ季語としての地位が確立されていません。
季語の辞典である歳時記にも載っていないことがあります。

湯気も似たような立ち位置の言葉です。
加湿器としての「湯気立て」が季語になっているものの、湯気そのものが季語という扱いを受けることは少ないと思われます。

ですから、
肉まんを分ければふたり分の湯気
は季語のない俳句とも解釈できます。

あるいは「肉まん」もしくは「湯気」のどちらかを冬の季語と捉えることもできます。

私はそこについて特に結論を出していません。
そして結論を出さないまま投稿に至りました。

なぜなら、みんなの俳句大会はその季節っぽい句ならOKというルールだからです。

冬っぽければそれでいいのです。
季語を絶対に入れなきゃいけないわけではありません。

そういうルールだからこそ大胆な決断も容易にできました。

他の場所であれば、季語の扱いが減点対象にされる可能性もあります。
なので多くの歳時記に載っている無難な季語を選んだことでしょう。

句作1:句の狙いを決める

さあ、いよいよ句を組み立てる段階に入ります。

今まで解説のために実際の句を引き合いに出してきましたが、
現実にはまだ使う季語以外具体的なフレーズは決まっていない状態です。

ここから季語以外のフレーズを作っていきます。

そのためにまずどんな句を詠むか決めます。

  • 季語のどんな要素を拾うのか

  • どう工夫を施すのか

  • どういう感想が欲しいのか

こういったことを考えると、句のイメージがまとまりやすいです。

季語の要素を拾う

俳句を詠む時、季語は主役になります。
なので季語に向き合うことが俳句作りの近道です。

試しに、初もうでという季語について考えてみましょう。

  • 神への祈りや挨拶

  • お賽銭を投げるなど祈る時の動作

  • おみくじ

  • 絵馬

  • 人だかり

  • 外は寒い

などの要素が思い当たります。
私の句では「祈る時の動作」「人だかり」といった要素に着目しています。

季語には様々な情報が含まれています。
その情報のなにかに焦点を当て、そこを詳細に描くというのが俳句を詠む一つのパターンです。

どう工夫を施すのか

せっかくなので、『初もうで』の句の例をそのまま続けましょう。

「祈る時の動作」「人だかり」に着目しようと決めました。
今度はそこにどう工夫を施して俳句にするのか検討します。

一番単純な方法は、細かく描写することです。

祈る時の動作そのものを細かく描写しようとした場合、こんな句も考えられます。

新五百円玉光る初もうで

お賽銭を投げる動作を描写した句です。
新しいデザインの五百円硬貨が発行された時事ネタを使ってみました。

あるいは細部を想像させる情報を入れることも一つの手です。

先ほど、想像の引き金がうんぬんと解説した作戦ですね。
ですから私はこちらの手段で句を作ったということです。

初もうでに来た人物の背景を語ることで、祈る気持ちやその動作を想像させる……
というアプローチをしました。

「デビュー間近」という、いかにも真剣に祈りたくなる背景。
この情報によって受け手が想像を広げやすいようにしました。

どういう感想が欲しいのか

どんなコメントがつくか想定して詠むことも良い方法だと思います。

「前向きで明るい句だね!」って感想が欲しいのなら、それに見合った言葉を探す方が良いでしょう。

たとえば私の『白鳥』の句は感想の誘導が露骨です。

白鳥は湖面に映る空の雲

白鳥!湖面!空!雲!
「美しい光景ですね」って言ってほしげな単語がウザいくらいに盛り込まれています。

これはわざと過剰に盛り込んだ句なので、
普通は一個か二個入れるくらいが妥当です。

この単語はどんな感想を誘うだろう?
と想像を巡らせてみると、言葉をスムーズに選べます。

句作2:分析や作戦をもとに組み立てる

ここまでたくさんの分析をしてきました。
たくさんの作戦を立てました。
その末に色々な方針が決まりました。

自分で決めた方針を忠実に守れば、フレーズは自ずと決まります。

方針にそぐわない表現を徹底的にボツにすれば、消去法で言葉の選択肢はぐっと絞られます。

『肉まん』の句でその具体的な手順をお見せいたしましょう。

肉まんの句の例

ここまでの作業で『肉まん』の句について決まっていることを整理します。

  • 「肉まん」という語を入れる

  • はんぶんこのイメージを使いたい

  • 湯気に焦点を当てる工夫を施す

湯気に焦点を当てることは、細かく描写するアプローチの考え方ですね。
肉まんからさらにクローズアップして湯気を描写することで想像を促そうという狙いです。
先ほどは紹介しなかったものの『肉まん』の句についてもこのような工夫を考えた上で、ここに来ています。

湯気に焦点を当てる方法は色々あります。
もっとも簡単なのは語順を調整することです。

湯気という語を句の末尾に持ってきて体言止めにする。
これだけで湯気に焦点をあてることができます。

一方で肉まんは句の冒頭に配置することを検討します。

肉まんは「温かさ」「美味しさ」などのポジティブなイメージを明確に持っているパワーワードです。
そのパワーワードを土台にし、後ろの表現を支えるための冒頭配置です。

これで、

肉まん〇【はんぶんこする】湯気

という句の構成が定まりました。
肉まんの後の1音には助詞(てにをは)が入る予定です。

さあ、ここからさらに突き詰めて考えていきましょう。

湯気に焦点をあてたいのであれば「その湯気って具体的にどんな湯気なの?」ってことが気になります。
湯気についての追加情報を入れるべきと私は考えました。

そこで【はんぶんこする】から「ふたり分」というワードを引っ張ってきました。
「ふたり分の湯気」と湯気を修飾する形にするのです。

ここで意識したのが「ふたり」とすることで未確定の情報を残すことです。
想像の引き金の作戦ですね。

夫婦やカップルなどと断言しません。
そうすると受け手は、「どういう『ふたり』なのだろう?」と想像をしたくなります。

これで、

肉まん〇〇〇〇〇ふたり分の湯気

と大体の言葉が決まりました。

想像を広げる余地はもう作れましたから、残りのスペースは俳句に慣れていない人のために使います。
わかりやすさ優先ってことです。

先ほどあった【はんぶんこする的なこと】の要素から「ふたり」を取り出しました。
でも、肉まんを分ける動作そのものはまだ描写していませんね。
なので「分ける」という動詞を入れることで「はんぶんこ」を簡単に導き出せるようにします。

肉まんを【分ける(4音)】ふたり分の湯気

「分ける」は動詞なので音数調整はある程度ききます。
「分けよう」「分けてる(い抜き言葉)」「分けたら」とか。

今回は「それをすれば、こんな素敵なことが起こるんだよ」というニュアンスを出すために「分ければ」という形にしてみます。

肉まんを分ければふたり分の湯気

これで完成です!

句作3:納得いくまで詠む

大会に良い句を出す最も単純な方法……

それは大量に俳句を詠んで、その中から一番良いものを選んで出すことです。

私も沙々杯に向けてたくさんの句を詠み、そしてボツにしました。
ここにそのボツ句を公開します。

着ぶくれや恋人いない歴初日
(季語「着ぶくれ」の季語としての実感を初心者の方が汲み取れるか不安だった)

地球人恋ひて光れば冬星座
(「宇宙の星たちは地球人に恋をしているから光って星座を描いてみせているんだよ」ということを詠もうとしたら、初心者どころか多くの人に伝わらない可能性が高い句になってしまった)

初夢に来てと言ったら来たあいつ
(具体的な情報が無さ過ぎて想像を膨らませづらそう)

早食いの子も数の子はよく噛めり
(わかりやすい上に味覚や触覚も刺激できて良い句。でももうちょっと温かいイメージや想像の余地を持たせたいと思った)

うつむいていたっていいさ散紅葉
(投票時期が1月なので、初冬の季語「散紅葉」の実感が薄れそう。そして初心者の方からすれば、紅葉=秋というイメージだろうからそこも損と判断)

初もうでデートもう願い事なんてない
(字余り解消できず、定型のリズムに整えられなかった)

普段着のコスプレイヤー初もうで
(人物の背景を見せる作戦の初期案。この情報から受け手がどんな服装を想像するか、反応が予測しにくかった)

ヘヴィメタの子の普段着の初もうで
(コスプレイヤー改案。しかし外見の情報である「普段着」にこだわっても奥行きが出にくいと感じ、「デビュー間近」のフレーズを思い付く)


たくさんの句をボツにしました。
「もっとわかりやすく」「もっと温かいイメージを」
と具体的な改善点を見つけて次の句に活かすことで、より良い句が詠めるようになります。

季語「初もうで」の句のように、改良に改良を重ねていくやり方もあります。

大事なことをもう一度

以上が、肉まんの作り方となります。

大切なことをもう一度ここに書いておきます。
今回紹介したのは、みんなの俳句大会を意識した俳句の詠み方でした。

時や場所が変われば使うべきテクニックも変わります。
今回紹介したことが正しい俳句の詠み方だと思ったらそれは大間違いです。

それだけでなく、
あなたの目標によっても重視することは変わります。

みんなの俳句大会で目指すのはなにも決勝ラウンド進出ばかりではないはずです。
もっと色々な楽しみ方があります。

自分がなにを達成したいのか?
まずはそれから考えてみることが大切。

そして、
自分の目標に合ったテクニックはなんだろう?
と検討することが最も大事な工程なのです。

この記事はとどのつまり一連の作業の具体例を示したに過ぎません。
しかしこの記事はみなさんが理詰めで創作をおこなうきっかけになり得ると自負しています。

創作は楽しむこともすごく大事

結果にこだわりすぎるとせっかくの大会を楽しめなくなって損をする可能性があります。

色々な方の作品を見にいってコメント欄で交流する……
note上の大会ならそういう楽しみがあります。
結果よりもそっちの方が大事と言っても過言ではありません。

しかし勝ちたいという意欲が強すぎると、なかなか他人の作品を褒められなくなってしまいます。
良い作品を見ると感動ではなく焦りや不安が先に来てしまいます。
それはとても苦しいことです。

勝ちにこだわること自体は悪くありませんが、
でも、楽しく交流することを失念するのはいただけません。

楽しむ精神は損なわないよう気を付けましょう!!

おわりに

繰り返しになりますが、

理詰めで創作をおこなえば、才能やセンスという曖昧なものに対抗できます。

しかし理詰めで考えるうちに、創作を楽しむ精神を置き去りにしてしまう危険性もあります。

諸刃の剣です。
だから私はこの記事を公開すべきかどうか悩みました。

創作の楽しさを忘れてしまう人を生み出すのは本意ではありません。
私の願いは、才能が無いと感じて創作を諦めてしまう人が減ってほしいというところにあります。

その点をご理解の上で活用していただけますと幸いです。

私はこの記事があなたにとって無数の知識の小さな一片に過ぎないことを望みます。
そして、どうか創作を諦めることなく、思い切り楽しめますように願います。

この記事が参加している募集

#振り返りnote

86,560件