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へそくり?!

 父は残業、母も友人たちと日帰り旅行に行っていて帰宅が遅くなるとのことで、その日は一人で夕食を食べた。午前中ヘルパーさんとの散歩の帰りにセブンで買ってきたソース焼きそばと、冷蔵庫に入っていたプリンを、友人のツイキャス配信と、叩きつけるような雨の音を聞きながら。
 夕食後、せっかくリビングに居るのだからとお風呂にお湯を入れておくことにした。
(ん?)
 お風呂用の長靴に両足を通した時、左足のつま先に何かが触れた。
(もっ、もしかして…?!)
 それはGの死骸かもしれない。不意に芽生えた可能性に一瞬ヒヤッとした。思わず左足のつま先を長靴の仲で丸めた。しかしその姿勢のままお風呂の線をするのはちょっとやりにくい。
 勇気を振り絞って左足を長靴から抜くと、それをひっくり返して2.3回振ってみる。Gの死骸かもしれない異物を出すためだ。
 カラカラカラ…。
 靴の中から突如聞こえてきた音にはたと手を止めた。そして逆さになった靴の中に左手を突っ込んでみる。すると小さな固体に指先が触った。それは金属のような物でできていた。何かの部品だろうか。思い切って取り出してみる。
「えっ、何でこんなところに100円玉があるよ!」
 それを手にした私は、驚きのあまり誰も居ない風呂場の真ん中で一人叫んでいた。その大きさと言い、ギザギザした模様の感触と言い、100円玉に間違いないだろう。
 なぜお風呂用の長靴の中に100円玉が?!いったい誰が何のために入れたのだろうか。
 もしかしてへそくり?!いや、それにしては安すぎはしないか。たったの100円である。100円のへそくりで何が買えるという。今時うまい棒10本でさえ100円ではもう買えないのに…。
 まあいいや。あれこれと浮かんでくる考えを打ち消すかのように、私はその100円玉をズボンの左後ろのポケットにそっとしまった。それは今後私の生活費の1部として使われることだろう。何のためかは知らないが、100円玉をお風呂用の長靴の中に入れた犯人さえも気がつかない間に。

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