ステキブンゲイのリレー小説企画『100回継ぐこと』に参加して気づいたこと

 前回の記事の最後で、今年の内はできれば重要な締め切り案件は入れたくないなあというようなことを書いたけれど、じつはこの時の私には、もう一つ重要な案件が残っていた。
 それがステキブンゲイのリレー小説企画の『100回継ぐこと』である。
 先日そのバトンがついに回ってきたのだ。
 これはステキブンゲイユーザー100人で一つの小説を完成させるという企画だ。
 今作はとある男女の手紙のやり取りで綴られていく物語になっている。
 私はその第71章を担当することになった。

 私は当初この企画に参加するつもりはまったくなかった。
 リレー小説は確かにおもしろそうだけど、自分が参加したことで、それまで綴られてきた物語の雰囲気を崩してしまうんじゃないかと思うと、なかなか自信が持てなかったからだ。
 しかしこの企画の参加者募集の告知ツイートを、小説書きのフォロワーさんたちに向けて引用リツイートしたところ、発起人でもある脚本家で映画監督の作道雄さんから、
「よかったら参加しませんか?」
というようなリプライがきたのだ。
 まさか発起人の作道さんから、ステキブンゲイのユーチューブチャンネルの配信を毎週聞かせてもらっている作道さんからお誘いが来るだなんて、本当に驚いた。
 これは断れないぞと思い、
「じゃっ、じゃあ後半辺りでおねがいします」
と嬉しさのあまりその誘いをついつい受けてしまったというわけだ。

 そのバトンが回ってきたのは、11月七日の夕方だった。
 仮眠から目覚めてすぐ、iphoneの通知を見た瞬間、そのdmを見つけた。
 ついに来た!と思った。
 おかげで眠気が一気に覚めた。
 そのdmには、こういう感じで次の章を書いてくださいとか、こういう風に書くとより読者に伝わりますよというようなアドバイスが書いてあったのだが、その時の私が1番脳に刺さったのは、dmの最後の方に書いてあった締め切り日だった。

 11月十日までにおねがいできますでしょうか。

 11月十日…。
 前日の九日は1日外出の予定が入っているので、七日の夜と、その次の八日と、締め切り日の当日しか書ける時がない。
 そんな短い期間で、『100回継ぐこと』の第71章を書き上げることができるのだろうか。
 不安と焦りが募る。
 でもやるしかない!
 これは書き手としてとても良い経験になるはずだから。

 毎週日曜日の日課である『笑点』を見終わってから、まずはこれまでのストーリーを読み直す作業を始めた。
 70章分を読み直すだけでたぶん2時間ぐらいかかっただろうか。
 この読み直しの作業をしていてまず一つ気づいたことがある。
 私は普段小説など読書をする時には『ブレイルメモスマート』という機器に、『サピエ』というサイトから点字本のデータを落としてきて読んでいる。
 だがこの『100回継ぐこと』は、小説とは言え本ではなく(最終的には書籍化する予定らしいのだが)、ステキブンゲイのサイト内で行われている物なので、ブレイルメモスマートに落として読むことはできない。
 いや、もしかしたら何かを接続したりすれば読めるのかもしれないけど、私はitにはあまり詳しくない方なので、そんなコードなやり方を知らないだけかもしれない。
 なのでpcトーカー(視覚障碍者が使うパソコンの文字を音声で読み上げるソフト)の音声だけで物語を読むのと、いつもの読書の時のように点字で読むのとでは、物語の入り方が違うのだ。
 ぶっちゃけ私的には点字で読む方が、音声で読むよりももっとしっかり文章が入ってくるような気がする。
 だからこの作業も点字で読んだ方が、もしかしたらまた違う入り方や向き合い方ができたのかもしれない。
 それでもdmでのアドバイスのおかげもあって、何となくの章の構想をまとめることができた。
 そしてその日の晩の内に冒頭部分の下書きを済ませてその日は寝た。

 翌日八日の午前中は、近所に来る移動スーパーに行くのも兼ねたヘルパーさんとの散歩の予定が入っていたため、執筆作業ができるのは午後からだった。
 昨夜の内にだいたいの構想をまとめていたこともあって、実際に書き始めてみると、2時間半ぐらいで下書きを終えることができた。
 下書きをしていてというか、これは前の日に読み直しをしている時にも感じたことなのだが、自分は他の書き手さんたちに比べて、情報量が少なすぎると思った。
 それは目が見えている人中心の社会や世間をあまり経験したことがないというのもあるが、この場合の情報量というのは、色や情景と言った視覚的な物を、自分はまったく知らないということである。
 確かに先天性の全盲者でも、色や情景は言葉さえあれば、その情報から創造することはできる。
 言う間でもないが、晴眼者の人たちはそれらの物を実際に目で見ているから、言葉や情報や創造でしか知らない私よりも、実態を持って知っているはずだからより確かだろう。
 たぶん『100回継ぐこと』に参加している私以外の書き手さんたちは皆晴眼者だろう。
 そんな晴眼者の中に入れば、全盲の私が書く色や情景と言った視覚的な物なんて、きっとただの創造でしかないのかもしれない。
 全盲の自分でも、文章を書くことなら誰にも負けないと思っていた。
 だけど晴眼者の書き手さんたちの中に入れば、所詮自分は全盲の書き手なんだなあということに、良くも悪くも気づかされた瞬間だった。
 これがもし20代の時の私だったらものすごく悔しいと思っただろう。
 でも現在34歳の今では、ああそういうものなんだよなあと自然に受け入れることができている。
 私は晴眼者と同じような文章は書けないかもしれないけど、それでも全盲の私だからこそ書ける文章を、これからも模索しながら書き続けていく所存である。

 その後なんやかんやあって、初稿を送ることができたのは11月九日の夜だった。
 何とか締め切りに間に合わせることができてほっとした。
 そしてその翌日の11月十日の夜に、私が担当した『100回継ぐこと』の第71章が公開されたのだった。

 ステキブンゲイのリレー小説企画『100回継ぐこと』に参加させてもらったことで、全盲の書き手として様々なことに気づかされたとても良い経験ができたと思う。
 この後どんな風に物語が続いていくのか楽しみである。

 100回継ぐこと #ステキブンゲイ
https://sutekibungei.com/novels/76e21c28-757b-439b-8af8-bbeba96af918

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