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#2 アルさんと私

 専業主夫は日本では(日本でも?)まだ珍しい。非正規雇用が男性にまで広がっている今は一概には言えないものの、まだ男性の方が平均的に収入が多いし、就職の際も優先的に採用されている。それにもかかわらず、あえて女性が賃労働で男性が家事労働という役割分担をしているカップルにはなんらかの理由がある場合が多いのではないと思う。

 もちろん、特に理由はない!という方々もいるだろうが、少なくとも私たちの場合は理由があるので、今回はそのことを書いてみようと思う。

 アルさんも私も結婚する前日までそれぞれの実家に暮らしていて、結婚を機にアルさんの方は遠路はるばる、私の方は近距離で引っ越して一緒に暮らすことになった。私の実家とアルさんの実家は飛行機に乗らないとちょっとキツい程度に遠距離なのだが、アルさんの方が長距離移動することになったのは、アルさんが持病持ちで仕事をできない状態で自宅療養中だったからである。

 私は非正規雇用の教師なので、職場を掛け持ちして暮らしている。掛け持ちしてなんとか2人で生活していけるくらいは稼げているが、引っ越すとなると同じ金額稼げる保証がない(というか多分無理)。アルさんが働ける状態にないのに私が仕事を辞めるのはリスクが大きすぎる。将来的に、アルさんの実家に近いところで就職という可能性もあるなぁと夢想したこともあったが、現実として今日も明日も食べていかなければとなると、アルさんに来てもらうしかなかったのだ。

 いざ、ふたり暮らしが始まって、私は自分の見通しが完全に甘かったことを思い知ることになった。アルさんの病状は、それまでに何度か一緒に過ごしたときに思っていたよりも深刻だったということ、短期間一緒に過ごす間は相当な無理をしてくれていたことなど、少しずつ理解していくことになる(少しずつなので、その間、アルさんは結構な無理を強いられていた)。

 このnoteを始めてから、改めてアルさんと話をしたのだが、私たちの場合、通常の「専業主夫のいる家庭」と同様に、一般的な性別役割分担と逆の役割分担になっていることに加え、アルさんの病気という要素があるために、健常者と病人であるがゆえの仕事量の分担がある。性別役割分担の逆転は世間からの視線や現実的な収入の問題であり個人の努力でどうこうできない部分が大きいが、病気のことは仕事の分担の不公平感などの夫婦間の感情の問題が大きい。

 つまり、専業主夫家庭一般に言えるであろう「性別役割分業の逆転」由来の〈問題〉だけでなく、私とアルさんの間には、病人と健常者という関係性に由来する〈問題〉がある。そのため家事分業などについて喧嘩になると話がややこしくなるのだ。というのも、実のところ、自分たちの生活の中で生じている〈問題〉が、男女逆転した役割分担によるものなのか、病人と健常者という関係性によるものなのか、自分たちでも測りかねているところがあるからだ(お互いの認識がズレている場合もあるっぽい)。

 私の外での仕事は「準備が8割」の職種である(当日どれだけやる気に満ちあふれていても準備をしていなかったらどうにもならない)こともあって、出勤がなくても家で仕事を全くしない日は基本的にない。週末であろうと、長期休暇中であろうと、毎日仕事はしている。休日には家事もすることが多いし、平日も帰宅が早い日は料理をすることもある。

 アルさんは、専業主夫だが持病と薬の副作用で体が怠いのが日常だ。酷いときは起き上がっているのもツラいらしく、何も食べないままずっと横になっているときさえある。そうやって時間が経ってしまうことへの焦燥感もあり、起き上がってからもしばらく落ち込んでいるのを見たことが何度もある。家事は自分の仕事だから、と体調があまりよくなくてもやろうとするし、特に私が忙しい時期などは全部やろうとしてくれる。聞いてみると、体調がツラいことを除けば、家事をすることそのものへの不満は一切ないらしいのだが、なんせ起きて活動できる時間が健常者よりも少ないので、家事をうまくこなさないとそれ以外のことができなくなってしまい、どうしても「一体、生きるとは…」みたいな哲学モードになってしまうようである。

 家事は誰かがやらなければいけない。もちろん無理にやる必要がない家事もあるけれど、掃除も洗濯も炊事も、トイレットペーパーやティッシュなどの日用品を切らさないように気を配ることも、誰かがそれなりにやらなければならない。全て外注にできるほどの稼ぎがないのだから、ふたりで協力するしかない。しかし、そのとき、外で働く大黒柱はついつい「なんか自分の方が損なのでは?」と思ってしまいがちなのでは?ということに、実はごくごく最近思い至って反省中なのですが、それはまた次回。

to be continued…


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