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ハンドボールレフェリー育成に関する一私案


僕の現状認識

ハンドボールは身体接触が認められているので、判断の別れるグレーゾーンの判定が頻発する。
競技規則上、明確に許される、許されない行為は示されているが、競技レベルやフィジカルによって同じ行為でも影響に大きな差が出るのだから、判断は難しい。

協会HPから競技規則の第8条を見てもらいたい。とても難しい。

僕はB級資格をなんとなく取得したが、吹笛は下手である。走る体力もなく、ハンドボールプレー経験も乏しいため、競技の肌感覚に乏しい。なので瞬間の判断が遅い。
ハンドボールを観察している時間はまあまあ長く、協会からの通達や競技規則には必ず目を通している(競技規則の原文も見比べた)ので、ベンチからの感覚はある程度あると思っていて、審判の技量や癖なども見ていて感じる。レフェリング岡目八目である。
ついでに人間観察は好きなので、精神状態もまあまあ分かる。自分自身についても。
ただ、ハンドボール競技では、観ていて分かることと吹笛とのギャップはかなり大きく、ベンチや観客席で見ていて分かる人、プレーヤーとして優れた選手が吹笛できるかというとほとんどの場合、そうではない。(日常トップのプレーやスピードを常に観ている、経験している人が経験則からの判断に優れているのは間違いないが)
長く競技に関わっている人であっても競技規則の理解が出来ていないことは多い。
ハンドボールは競技の成熟度が低い(日本に伝来したのも100何ほど前)ので、まだルールが整備されている途上だとも言える。年々ルールが更新されている。よって、30年前のハンドボールと判定は大きく違っている。(競技の“暴力性”が問題視されオリンピック種目から外れそうになった過去があり、ルールが整備されていった。)つまり、過去のプレー経験のみを根拠にジャッジしていると危険である。

そもそもレフェリーの絶対数は足りない。
高校野球でも誤審が話題になったが、地方大会でお金をもらってレフェリーを呼ぶというのはハンドボールでは考えにくい。呼ぼうにも吹笛できる人がほとんどいない。
吹笛できる人は、すでに別カテゴリで吹笛しているか自チームを指導している教員である。
プレーオフ、選抜、春中が重なる3月は人手不足で、かなり経験の浅いレフェリーも全国大会ノミネートされるらしい。
レフェリーのライセンスはD級から始まってA級→国際と上がっていくが、僕の認識では普通にハンドボールのルールを理解しているレベルがB級資格だ。ちゃんと吹けるのはA級という感覚だろう。
もちろん資格なので受検していないだけで、練習試合を吹笛するだけなら上手い人はたくさんいるだろうが、それは資格の正当な評価と発展という意味ではあまり意味がない。
A級は確か日本に500人くらいしかいないらしい。(ハンドボール学会誌でデータを見たが、うろ覚えである)希少性は高いが、正当に評価されていないという印象である。D、Cは金を払えば誰でも取れる。レフェリー資格の入り口である。

レフェリーへの批判はスポーツあるある(非常に残念なことではあるが)なので、無くすことはできないと思うけれど、文句を言うだけでは先に進めないので、具体的な行動プランが必要である。
レフェリーの道で頑張っている仲間や教え子もいるので、サポートする仕組みが上手く作られてほしい。

地域での指導をされたりSNSなどで情報発信をされたり、素晴らしい活動をされているトップレフェリーの方々もおられるが、日本のレフェリーは残念ながら世界では認められていない。
コンスタントに世界トップレベルの試合を吹笛している日本のレフェリーはいない。
東京オリンピックで日本のレフェリーは吹笛できなかった。
海外から来る監督や選手、チームはことごとくレフェリーへの不満を露わにする。
正直、悔しい。
レフェリーの育成は、正しいハンドボール技術の習得に役立つし、強化に直結する。
レフェリーの環境整備や育成制度について以前から考えていることをまとめたい。

トップレフェリーへの道

現状、JHLなどトップリーグを経験した選手がセカンドキャリアとしてトップレフェリーを目指すということは、ほとんどないようである。(いらっしゃったらごめんなさい。)
16歳からレフェリーとして登録でき、トップレフェリーへの道のりは前掲のHPに紹介されている。
D級取得からA級or国際までは吹笛試合数だけでなく経験年数が必要となるので、30歳前後がレフェリーとしてベストパフォーマンスを出せる時期だとすれば、大学生年代でレフェリーに専念する選択をせねばならない。JHL選手なら現役中から資格を取得していないと、選手引退後にトップレフェリーを目指すのはやや遅い。(不可能だとは思わないが…)
実際、選手引退後にハンドボールに関わる場合には、レフェリーより指導者として経験を活かすのは自然なことであるし、指導者としてのニーズの方が圧倒的に多いだろう。

世界を経験した選手や指導者はどうだろう?
YouTubeやSNSで簡単に海外の情報が得られる時代になったとはいえ、実際に海外でプレーしたり指導を学んだりする経験は貴重である。ガラパコス化したハンドボールに海外の最先端のトレーニングや戦術を…というかたちでチーム指導に素晴らしい刺激を与えるのは間違いない。
トップレベルの指導者に海外経験者が多いのも自然なことだ。(日本にいても学ぶ気があれば学べる。英語の資料や文献はいくらでも手に入るし、コーチ講習でも知識は得られるけれど。)

つまり、現状のシステムでは需要と供給のバランスからトップリーグや世界での競技経験を持つ人材がトップレフェリーを目指す方向へは導けないのである。
フランスでも育成の途中でトッププレーヤーの道を外れた人材がレフェリーを目指すと位置付けられていた。あくまでスポーツの中心は選手であるから、これはある意味でやむを得ないことなのかもしれない。

ちなみに、競技規則問題集に取り組んだとして、JHL所属チームの選手の平均点はどれくらいだろう?監督は勉強しているのだろうか?
JHL統一テストと称して各チーム代表者7名に筆記試験に取り組んでもらいたい。JHLイケメンコンテストみたいな企画よりこんな企画を僕は希望する。(イケメン選手や美人選手を否定するつもりはまったくない。ただ、わざわざ取り上げなくても、熱く誠実にファイトする選手はみな見ていて当たり前にカッコいい。)

レフェリング環境

では、誰がレフェリーを志すのか?
はっきり言って、現状の登録制度ではレフェリーを生み出すインセンティブはまったく働いていない。(昨今の登録料改訂やTD資格新設は、マイナスの方向に働く。)
草ハンドボーラーに、何万円もかけてレフェリーグッズを揃えて毎年更新料を払ってレフェリーをしたい、と思うモチベーションは生まれるだろうか??
競技規則を読み込み、問題集に取り組み、ゲームの運営について研鑽していくモチベーションは生まれるか??
ハンドボールのトップレフェリーはアマチュアなので、待遇はサッカーやバスケットボールと比べて圧倒的に悪い。金銭的な保証は皆無である。
地域差はあるのかもしれないが、サッカーのインターハイ予選決勝レベルでも、JHLレフェリーより手当てが充実している。
指導者が、自チームの指導だったり大会運営のためにレフェリーのトレーニングをして、その人たちがその延長上でJHLを目指して吹笛して、何とかレフェリーが確保できているというのが現状のレフェリー志望の状況ではないだろうか。
もしくは、自分のチームを持たない人がチーム運営に関わる中で吹笛を担うというかたちではないだろうか。関西学連を支えるレフェリーチームはそういった方々だろう。

したがってレフェリーのトレーニング環境もまったく整備されていない。
JHLの試合を吹笛するレフェリーはアマチュアである以上、普段からそのレベルのプレーを見てジャッジの研鑽をするのは難しい。(平日働いているとしても、中高生の部活レベルなら吹笛する機会は作れるかもしれないが)
JHLレベルのプレーを、選手と同じような頻度と強度で普段から吹笛トレーニングすることは、日本のチーム数や試合環境では不可能である。
本校のOBがトップレフェリーを目指してトレーニング中で、しばしば社会人や大学生のトレーニングマッチに手弁当で吹笛修行に参加させてもらっているようだ(中高生の練習試合を吹くよりずっと上手くなる)が、彼らは学歴を活かした効率の良い高収入アルバイトがあるため、アルバイトに忙殺されることなく、学業とチームトレーニングと吹笛とを回すことができている。(彼らの使っているインカムは僕が自腹で買ったものをほぼ奪われた状態のものである…彼らが偉くなったら雇ってもらうのでまあよい)
プロリーグ化されたとき平日夜に試合が開催されるとして、吹笛可能なレフェリーはどれだけ集まるだろうか?
レフェリーに取り組むことで、副業同様のお金を稼ぐことができるようにならないと、レフェリーの絶対数は増えない。絶対数が増えないと淘汰は起こらないので、全体のレベルも上がらない。
…ような気がする。

どんな仕組みが作れるか

僕が求めるシステムは以下の3点+αである。

  1. トップレフェリーのプロ化

  2. 育成レフェリーの支援制度

  3. レフェリー研修資料アーカイブ

  4. (JHL統一競技規則テスト)

1.は単純な話である。レフェリーを専門として生計を立てることができれば、この道を志すことでの経済的な負担をいくらかは軽減することができる。レフェリーで収入を得る道があれば、初期投資としてグッズを購入したり資格登録料を支払ったりという心理的なハードルもいくらかは下がる。副業でも収入があれば、本業の休みが取りやすくなる。
プロレフェリーとなればJHL吹笛以外にも、代表合宿に帯同して吹笛トレーニングをしたり、国際試合のトレーニングマッチに派遣したり、海外研修に派遣したりというレフェリング技術研鑽の機会も作りやすくなる。
結果として吹笛レベルは高くなる。
海外の基準を持ち帰ることもでき、全国のレフェリーに還元することができる。
トップツーペアを年俸1,200万でどうだろう。

2.はレフェリーの入り口の整備である。
たとえば、16〜20歳の若い世代がレフェリー登録をする際には検定料不要、更新料は半額でどうだろう。16歳になった瞬間に自分でホームページを調べてグッズ注文をしてレフェリー登録する変わり者を僕はひとりしか知らない。
若い年代で登録をして吹笛を始めるハードルが下がれば、その中から競技と並行して吹笛する高い競技レベルの選手兼レフェリーが生まれてくるかもしれない。
吹笛経験は自身の競技レベルを上げるのに資するかもしれないし、競技者としてトップを目指して上手くいかなかった場合のセカンドキャリアとしてレフェリーの道があれば、競技への集中度も違ってくるのではないだろうか。

3.は学びたい人を応援する仕組みである。
CBTみたいなかたちでルールテストを実施すれば、いくらかハンドボールのルールを学びやすくなるのではないか。
映像資料と組み合わせて実際のジャッジを理解することで判定基準のコンセンサスを作っていく。
日本協会の審判部のページにもいくらか研修資料はあるが、IHFが出しているものとはやや狙いが異なる。
現時点ではJHLの試合を観ても判定が正しいかどうかは判断できない。解説者がジャッジに明らかに異を唱えている場面もある。ハンドボール観によってレフェリングの好みもあるようだ。
選手はアピールするし、ベンチは抗議するし、まあまあ見苦しい場面もある。ジャッジのレベルが低いのか、試合中の興奮からアピールするのか、そもそも主観的なものだから両者が都合良く主張しているだけなのか…
1.のプロ化とも関連するが、審判団として選手と議論しながら判定基準の擦り合わせを行い、規範となる動画資料を作れば円滑なレフェリングにも繋がるように思う。
サッカーのジャッジリプレイのような仕組みを運営するのもプロレフェリーの仕事として位置付けられると思う。

4.はオマケ。ハンドボール競技者でも、曖昧な理解でプレーしていることはたくさんあるので、みんなできちんと学びましょう。
トップレフェリーは円滑な試合運営のために座学も頑張っているのだよと選手も知ってください。
一定のリスペクトは必要ですよ。

終わりに

現場での感覚からの意見なので、世界・全国を見渡しての状況や他部門との兼ね合いなどは知らない。机上の空論だと言われても仕方がない。
現状の厳しい環境で、ハンドボール界の発展のためにトップレフェリーとして吹笛を続けられている先達は本当に素晴らしい。しかし、この環境のままで後進が育たないのは、火を見るより明らかである。厳しい環境にも自己犠牲で取り組む人材を期待する時代は終わった。教員採用試験の倍率が激減していることからも推して知るべしだ。
ベストを模索して、出来ることをやっていきたい。後進たちがもっと様々なかたちでハンドボールを楽しめるように。
久しぶりに真剣なテーマでした。

安井直人

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