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完全に1月は潰れた。我ながら自信のない顔で歩いてるよ。【小説】

 あいかわらず頭と身体が重い。なんかゼリーみたいなものに全身がからめとられているような感覚で、すべての反応が鈍い。有楽町に煉瓦づくりのトンネルあるじゃん。グラフティだらけの。あそこをどしゃぶり雨の中、歩いてる気分だな。え? わからない?

 こうなるとさ、周辺やネット上で一方的に知っている人たちの中でも、何人か心の不調を訴える人が目に付くんだよね。「ま、冬だからね。日光を浴びないパターンのやつもあるよね」と思いつつ、単にこっちが不調を意識しているからか、同じように具合の悪い人とを見つけやすいのかもしれない。

 後者を「カラーバス効果(色を浴びる効果)」という。赤でも青でもなんでもいいので、なにかの色を意思聞いて町を歩けば、意識した色がいつも歩いているこの道の中から目に飛び込んでくる。いつもいつも、見逃してるものがあるし、それで問題ないと知れる遊びだ。

 ということで、こっちがうつっぽいなと思いながら歩いていると、ふいに心ズタズタ、なんとか歩いてるんだろうって人に駅や街中で出くわすことがある。ここが中南米やエジプトのカイロだったら、「おう、はじめまして。ご同輩、調子がわるそうですな」なんて会話が生まれるんだろうんな。日本でも50年ぐらい前か、『男はつらいよ』の寅さんみたいな人はいただろうにね、きっと。「いやいや、あんたに心配されるほどには落ちぶれていないよ」なんて言われちまうかもね。

 でも、この新宿区とはいえ治安の悪くもないそこそこ住みよい町では、そんな人情味のあるような会話は生まれない。ざっと20 人ぐらいの周辺住民、可を走ってっも名前も知らない。会釈ぐらいの挨拶をするだけ。俺がそうしちゃったよな。引っ越してからすぐに溶け込むチャンスを逃した。でも、それが正解な気もしている。たた、面白いことはおきない。

 せっかく調子が悪いのに、事件も起きやしない。だったら、有事の際にどの家に押し入るかぐらいの妄想ぐらいしてみるのはどうだろう。どうせ小心者だから実行なんかしやしないだろ。妄想だけはタダだぜ。しかし、妄想なぞ起き得ないぐらい、それ以前に近所の人のことがわからない。

 むしろ鏡で自分の顔をみたときのほうが事件だ。老けてんなー、目に力ねーなー。肌につやないなー。飯もろくに食わず寝てばかりいりゃ、そりゃこうなるな。

 ということで、ロクでもない人相をして歩いてるので、たまの外出の際にエレベーターなどではにこやかに「ありがとうございます」「どうぞ」なんて言いながらエレベーターボーイ役をやっている。女性を先に送り出したら、5メートル以上は距離を取ってゆっくり歩く。ついてきてるとか思われたくないからだ。今の自分に警戒の眼差しなど向けられたら、「なんだよ」と怒鳴ったりしてしまいそうだ。完全に倫理的にも道徳的にも問題のあるやつだ。男性優位社会だからこそ男性が起こしがちなヤツ。最悪だと認識してるのに、「おきてしまうかもしれない」と思ってるのも、倫理なり道徳なり政治的正しさなりの基準でだだしいのか問題があるのか、じっくり考えんきゃいけない。そして、答えはきっと「正しくない」だろう。

 なので、今の自分ができることにひとつは、ともかく異性から距離を取ることだ。

 さて、出世はこれでなくなったろう。求めもいなかったが打診されていたのだが。でもやっぱり部下を統括し、求められた厳しいノルマを課す仕事は、俺にゃ無理だ。なので、同期ときっと百万円単位で低い給料で行きてくことにする。この年になりゃ、起きることだが、やっぱ金で評価されるってのは性に合わない。サラリーマンだけどな。

 会社もチャンスをくれてたんだが、まあ、無理っすよ、部長職は。ていうか、このチーム、チームにしようとしたけど、結局チームになんなかったっすね。お手伝いしてた俺がぶっこわれちゃったし、もうチームづくりの動機もさがっちゃたかな。

 ありとあらゆることがどうでもよくなり、そしてそろそろスケジューリングしないと事故る頃合いだね。経験則から、早めにデッドラインが近づいてるのがわかるんだが、体が言うこと聞かない。脳に入ってこない。ノートに鉛筆でうだうだ書いてるだけ。治療行動レベルで仕事になってない。けど、週一の報告は適度にこなすんだわ。こいつ。だからほんとに鬱なのか自分でもわからなくなるけど、脳は重い。まったく順調じゃない。そして喜びが減っている気がする。だが、これは認めたくないな。

 だが、もしも4月に異動させられるのならばイヤだな。せめてあと一年、ここを変える試行錯誤をしてみて、「どうにもならんわ」という結論が出たら、もう「作品を作る」ことを仕事にするのは諦める。一度諦めたが、復帰を早まったかな。ま、こうなってはなんとでも「たられば」を言える状態で。そうなったら、もう趣味でやるわ。でかい仕事にはきっとならない。


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