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確率50%の恋【短編】

「50%、2分の1が一番相手を夢中にするらしいよ」

 教室で弁当を食べながら、恵美子はクズな父親が昨晩言い出したという珍説を披露していた。

「パチンコにリーチっていうのがあるんだけど、魚群リーチっていうのが人気なんだって。これが出ると2分の1の確率で大当たり。で、この2分の1ってのがミソで、当たるか当たらないか絶妙に人を夢中にさせる確率らしくって大人気なんだって」

 香にはまったく興味がわかない話だ。「ふーん」と言いながら、恵美子は何を言いたいのだろうと思いながら聞いていた。

「だから、『好きな相手を夢中にさせるんだったら、言うことを毎回聞いちゃダメだ』っていうのよ」

 香はようやく身を乗り出した。「どういうこと?」

「例えばデートに誘われても、2回に1回は理由をつけて断ると、より相手を夢中にさせるんじゃないかってこと。毎回、デートに応じてるともう相手を安心させちゃうでしょ。だから、2回に1回は断って、相手ドギマギさせることが肝心なのでは?って」

「なによ、それ。デートできてるんだったらもういいじゃん。そんなに何度もデートに誘われるなら付き合っちゃえばいいじゃん。そういう状況になるのにどうすればいいのよ」

「うーん、消しゴムを貸してくれと言われたら、2回に1回貸さないとか?」

「そんなの単にイヤなヤツじゃん。ていうか、そんなにちょっちゅう、消しゴムを借りるようなヤツもイヤだな。ダラしないし。机上の空論ね」

「いや、多分、付き合ってから使えるテクニックなんじゃない? んーと、キスしそうになったらスカすとか?」

「だー! そんなの毎回しときゃいいじゃん。ていうか、したいでしょ! どーやって相手をその気にさせるかがききたいのよ、あたしは!」

 あの夏の日、そんなことを言っていたあたしはつくづく子供だったな、と香は思い返していた。

 あの「ニブイチの法則」は大人になった今、かなり使える。

「マイコさん、2番テーブル、ご指名です」

 黒服に源氏名で呼ばれた香は「はーい」と愛想笑いをして立ち上がる。

「あら、社長、この間はごめんなさいね。せっかくお芝居のお誘いいただいたのに、どうしても予定が合わなくて」

「いいんだよ。それよりマイコちゃん、今度さ、新しい店をオープンさせるから遊びにこない?」

「行くわよ、もちろん」 

「うれしいなあ。なかなかお誘いしてもマイコちゃんは付き合ってくれないから。芝居の前に焼き肉に誘ったときも断られたし」

「そんなことないわよ。焼き肉も行けなかったけど、その前のコンサートはご一緒させてもらったじゃない」

 確率は50%に収束させている。飽きさせない、それが相手を夢中にさせるコツだ。

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