見出し画像

伊達眼鏡

小学生の頃、眼鏡のレンズをフレームからはずし、レンズがない眼鏡をかけて笑いを取る同級生がいた。彼は得意げに2枚のレンズを見せつけてきた。周りは「すご~い!!」と囃し立て、笑っていたが、あれはいったい何の時間だったのだろう。
と今は思う私も、必要以上に「レンズを外してくれ」と懇願していた。

小学校を卒業してから彼のことを思い出すことも無かったのだが、この間寝る前ふと思い出した。あいつ、眼鏡のレンズしょっちゅうはずしてドヤ顔してたなぁ。まるですごい特技を披露するかのように。

いや待てよ。疑問が一つ、

「眼鏡のレンズをフレームからはずすという行為は特技か」

特技の定義は難しい。広辞苑によると「特に優れた技量、特別な技能」らしいが、制限も比較対象もない、あいまいな表現だ。

何を言っているんだと思われることは承知しているが、一度考えてみて欲しい。眼鏡のレンズをフレームからはずすという行為は特技とも特技ではないとも言い切れない、絶妙な位置にある行為だと思わないだろうか。私はあいにく寝る前にこの疑問を抱いてしまったものだから、睡眠時間を1時間奪われた。

眼鏡のレンズをフレームからはずしている人間は、クラスでただ一人。彼は「特別」だった。ただ、正直言わせてもらうと、レンズははずそうと思えば私だってはずせる。負け惜しみではない。眼鏡が壊れるかもしれないのに、そんな馬鹿な真似はしない。眼鏡はそれなりに高級品だ。

眼鏡本体が持つ特技なのかもしれないと、よく分からない所まで思考をめぐらしてしまったが、そもそもレンズが簡単に取れる眼鏡は「特に優れた」眼鏡ではない。これについては私も何を言っているのか分からない。たぶん睡眠時間の40分はこいつが奪っている。

レンズは取ろうと思えば誰でも取れる。
眼鏡が凄いわけでもない。
ここまで考えた結果、思わぬ所に彼の凄さが隠れていることに気付いた。(正しくは捻り出した。)

あの時の彼が持っていた「特に優れた技量、特別な技能」は、眼鏡が壊れるかもしれないというリスクを顧みず、皆を喜ばそうという思いだけでレンズを外すことができる思い切りの良さとこの上ないドヤ顔か。


馬鹿な真似だとかほざいて申し訳ない。

立派な特技だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?