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[ショートショート]夏の行進曲―メダカと吹奏楽とー


夏をテーマにした
短かいストーリーの話が思いついたので書いてみました👋

そのままPCの中に書いたものを寝かせておくと、
来年の夏ごろまで寝かせたままになりそうなので💦😅

この夏の時期のうちにアップをしてみます🪴🙂🪴


いつもの連載ストーリーものと いっしょにどうぞ🙌🏼🙌🏼

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夏の行進曲―メダカと吹奏楽とー


夏休みのある日。
わたしは飼育当番で、学校へと来ていた。

わたしたち中学1年生と、それから上の学年の中学2年生の2つの学年から
立候補制で、職員室にあるメダカの水槽のお世話だった。

1日に、2人の生徒がお世話の担当にあたっていて、
それから係の先生も1人いる。


(その先生の指示にそって、メダカの水槽のお掃除をしたり、
エサをあげたり、つぎの当番の人たちにむけての
日誌を書いていったりする。)


わたしの当番も――、ぶじに、…まぁ、たいしたことも、
何てこともなく、役目をおえた。

***

「ふう……。」

職員室の用事が終わったあと、わたしは外の日陰の中庭で
持ってきた水筒のお茶を飲みながら、しばらく涼んでいた。

(水槽の中のメダカは、春だろうと夏だろうと、
変わらず水槽のなかを泳いでいたなぁ。)


ひらひらと、ひらひらと。

水槽の外側で、お世話をする人を
じっと見ているのか、いないのか。


「ふふふ……。いいな。メダカは。
……宿題とか、夏休みに何もなくて。」


それでも、飼育の当番の人からエサなど入れてもらったり、
健康チェックをしてもらったりして元気に過ごしているのだから、
メダカの生活の、全部が羨ましいというものでもないのかも。

……だって、夏の時期にでも、自分から遊びに行ったり、
友達に会いに行ったり、映画館に行ったりなんてのもないのだから。


たぶん、友達もなにもかも、
おんなじ水槽の中で、過ごしているってことなんだろう。


「あ……。」


プワーーーーー

プアーーー……。


吹奏楽部の、楽器の練習の音だった。

ここの外の場所からも、よく音が通って響いている。


「はあ…。えらいなあ。吹奏楽部は。
毎回 部活で、夏休みも練習に来ていて。」


運動部もすごいと思うけれど、
吹奏楽部だって、各自 楽器を使いながら、
練習に励んでいる。


――きっと、運動部の大会の時に吹く曲の練習なども
かねているのだろう。


(運動部の、大会か……。

――そういえば、うちの学校では9月の後半に体育祭があるから、
夏休みが終わったら、体育祭の練習も始まることだろうな。)


そのときの体育祭では、
たしか吹奏楽部の演奏とかはなかったと思う。

でもさ、こんなにいい音で吹いているから、
ちょっとだけ完成版の曲も、
わたしたちふつうの生徒にも――運動部に入っていない子達にも――
聴ける場面があるといいのになぁ、と、ちょっと思ってしまった。


体育祭のときの放送の音楽って、なんだか定番の、
「いかにも運動会の曲」というのが、……いまいち楽しめないのだ。


もっと、あたらしさがあるといいのになと つい思ってしまう。


……そんな体育祭のときの音楽が……、もしも、
吹奏楽部の応援の曲に変わったとしたら。


……自分が出ている種目のときに、吹奏楽部が吹く曲で
応援を演奏されたら、いったいどんな気分なんだろう。


わたしは……そんなとりとめのない空想を、イメージした。


『さあ!スタートしました!
――わあ!早い、早いです!みんな!がんばってくださいっ!

――あっ、遅れていた子が……、いま、1人追い抜きました!!』


プワ――――ッ


そこで吹奏楽の、演奏が盛り上がる瞬間。


わたしはその曲を――自分の応援のためにあると信じて、走り抜けていく。

――そして、一緒に走っている仲間のライバルたちも、
きっと同じように、
走ってただひたすらに駆けていく――……。


そして……ゴ―――ル!!


…わたしは、一緒に走った仲間の子達と その健闘をたたえあいながら……、
1人1人と、握手をした。……そうして、走り終わったあとに、
いま走った子達のみんなで、演奏してくれた吹奏楽部のほうへと、
手をふった。


それから、つぎのレースの子達も。


それからまた、つぎの種目の子達も。


ゴールに向けて、一直線に走っていく様を、
吹奏楽の演奏が、これでもかと、

まるで……その場に出ている子達の感情や鼓動を、表しているかのように。


音が鳴っては、盛り上がって、
応援席からも声援が起きて。


種目に出ている子達もまた、1人1人に、
熱が生まれて、盛り上がって。


……そんな、とてもいい運動会だった。


「うん……。いい。すごくいいよ。

――ああ、こんなに すばらしい体育祭だったら、
外での練習も、多少は頑張れるっていうのにな。」


おっと。もう、こんな時間になっていた。

わたしは、中庭の涼んでいた場所から、――だんだん日差しが出てきて、
暑くなったその場から退散したくなったのもあって――、
立ち上がって、夏休み中の学校をあとにした。

その日の帰り道。

わたしは、メダカが水槽の中でおよぐ、ひらひらした様子と――、
それから体育祭で、吹奏楽部が曲を演奏している様子を、
交互に考えたりしていた。


――だからだったのかもしれない。


その日の夜、わたしはこんな夢を見ていた。


運動会で、わたしは吹奏楽部の1人として、
空想上の楽器をを演奏していた。

(なんの楽器かなと思ったら、とりとめもなく、
形を変えていく楽器だった。)


―――みんなは、その楽器の演奏に合わせて、
入場行進をしていく。

よこに一列に並んで入ってきたかと思ったら、
今度はたてに一列で入ってきたり。

…まるで、魚が泳ぐように、ひらひらと。
ひらひらと、団体でだ。


…それから、わたしがピイィーーーと、ちょっと大きな音で
笛のように鳴らすと、つぎはパジャマ姿であわてて遅刻した様子で
入場行進の場所にやって来たひともいれば、

いかにも受験勉強中でした!という様子の子が、
参考書や教科書などを
小脇にかかえて、走ってやって来る。


――まだ、今日は試験の日じゃないですよ!と
わたしが吹くのをやめて声をかけると、その人は、ほっとしたように
安心して、…それからほかのみんなとの整列に合流をした。


生徒のみんなの入場が終わって、
これで全員が整列したかと思ったら――

今度は生徒のみんなの親や家族が、どこからともなく入場行進へと
加わってきた。


ぞろぞろ、ぞろぞろと。


保護者のひと同士が
「今日はいいお天気ですねぇ」と話していたり、
だれかの妹らしき子達が、別の子達の来ている服とか持ち物とかを
見ながら、

「かわいー、その服どこで買ったの?」
「このポーチ、ママに買ってもらったんだー」と、

和気あいあいと話していたり。


…かと思うと、もう一方では、
だれかの弟らしき男の子達が、

「こないだのTVみた――っ?」と
元気よく横のだれかに訊いていたり、

「あのマンガさいこう――っ!」と
大きな声で言っていたり、

「今日の運動会は負けねーからなぁ!」と
意気揚々としている子どもたちもいたり。


それを見ながら、わたしは、ちょっと陽気な感じの雰囲気で、
楽器を鳴らしていく。だれもかれも、その音楽を聴きながら、
のんびりと、おおらかに、ゆったりと入場の行進の足をすすめている。

……1人1人の、家族やきょうだいの子たちが
みんな行進をおえて、入りきったところで、
もう運動場では 大にぎわいの大混雑だ。

もうこれ以上は、入場する人の数も増えないだろう……、と思っていたら、
なんと前方のテントの場所に控えていた先生たちが、

「では、そろそろ自分たちも」といった様子で、
入場の行進を始めていく――。


……楽器を持ったわたしは、
(いつからいたのか、どこからともなく登場してきた)
横にいる同じ吹奏楽の仲間の女の子から(多分先輩だろうか)、


「何してるの、まだ入場行進の演奏は終わってないわよ!
さあ、吹いて吹いて!」


と言われて――、すかさずまた、楽器をかまえて
鳴らし始めていく―――。


持っている楽器の形も変わって、
今度はまた、さっきの子どもたちや家族の人たちが
入場していた時の音楽とくらべて、ちょっとだけきりっとした感じの、
引き締まった音楽だ。

……でも、わたしが きりっとした感じの曲を演奏していると、
ときおり横にいる、仲間の吹奏楽部の先輩が、絶妙に間の抜けた感じの――
まるで、合いの手のように――、そんな音を出してきた。

その音の効果により、入場行進をする先生たちは、
ただきびきびと歩くだけでなく、
日ごろの世間話なんかもする余裕が出てきたみたいだった。


先生たちも、日ごろの授業やテストの採点や、
学校の行事なんかで おつかれだった。

この運動会で、疲れることなく、
ただ楽しく羽を伸ばしてもらえればいいなと思った。


……わたしは、横にいた吹奏楽部の先輩のほうを、ちらっと見た。
吹奏楽部の先輩は、ぐっ、と、一瞬わたしに向けて、笑顔で親指を立てる
動作をした。


……だれが、どんな曲を求めているか、必要としているか、
自然と分かるだなんて――、さすがです、先輩。


わたしは、そんな敬意の目で彼女を見た。


……そろそろ、この入場行進も終わりだろうか……。


と思っていると……
そこから最後に、近所の人たちも、
入場行進に遅れながらもやってきた。

「今日は、運動会だったねぇ。」

「そうですねえ。――私、うまく走れるかしら。」


「まあまあ、子どもたちは元気なこと。」


「わしも もう高齢者だけど、まだまだ子どもたちには負けんぞ!」


などどいった様子の声が
聞こえてきた――。


そうだ。今日のこの運動会は、
なにもこの学校に通っている
生徒のためだけのものじゃなかったんだ。


その生徒の子達に関する保護者やきょうだい、
それから学校の先生たち、……さらには近所の人たちと、
大にぎわいの、一大イベントの運動会だったんだ。


……そして、その一大イベントを盛り上げるために、
わたしは吹奏楽部の、音楽を吹いて奏でている――。


なんだか自分が、とても立派なことのように思えてきた―――。


こんなに、暑い中で、楽器を吹きつづけて――…。


…ん?あつい?
……そういえば、さっきから、ぜんぜん暑くはなかった。

楽器をずっと吹いているというのに、
わたしは全然、疲れてなんていなかった。
(それどころか、吹けば吹くほど、――心も体も、元気になっているような
感覚だった。)


きっと、外の運動場の場所にいるというのに、
まるでクーラーの冷房の中の場所にいるかのように、
とても快適で、涼しかったからなんだろう。

……その効果によるものなのか、
入場行進のひとたちは、
とてもなごやかだった。

(……小さいきょうだいの子どもたちは、その場にまるくなって、
「ちょっとおひるね~」と、種目がはじまる前に、
ネコの集会のように座り込んでしまった。)


――また、本来の学校の生徒たちはというと……。


ほかの人たちが入場している間、ずっと行進の足踏みを
同じ場所で つづけているのではなく……、


「つぎはどんなひとたちが入場してくるんだろう?!」と
言わんばかりに、――興味津々で、入場の始まりのところを見ながら、
ぴょんぴょんと跳びはねてみたり――。


知ってるひとが入場に加わっていたりすると、
その場で手を振ったりしていた。


(この光景……、なんだか、見たことのあるような……。)


ふいに、わたしはなにかに似ているように感じ始めた。


(なんだっけ……、この場面……?何かと……??)


―――あっ!!


そうだっ!


……以前に、 TVで見ていた、
オリンピックの入場行進や、閉会式の和やかさや、
にぎやかさと、にているんだっ!!


音楽が鳴っていて。


そこに入場してくる人たちも、
和気あいあいと、にぎやかで、みんな笑顔で、楽しそうで。

…それぞれに――、自由にみんなで、おしゃべりをしていて。


(ん?閉会式……?)


…と、そこでわたしは再び、また疑問に思った。


「あの……。先輩。
この運動会って、これから始まるんですよね……?

…それとももう、これって閉会式の入場行進だったりするんですか?」



よこにいた吹奏楽部の先輩は、わたしに
さも当然といった様子で、
きょとんとこう答えた。


「え?――なに言っているの?
…これが、始まりか終わりかの入場行進の、どちらかですって?」


「はい、運動会の種目って、これから始めるんでしたっけ?
……それとも、もう種目をぜんぶ終わったんでしたっけ?」


なんとも、不思議な質問だ。

……でも、先輩からの回答は、もっと不思議なものだった。


「――もう。なに言っているのよ。
『競技の種目があるかどうか』だなんて。

『競技をすること』が目的なんじゃなくて、
――この『入場行進をすること』が目的なんでしょう?

……さあ、このあとは、一度解散したあとに――、今度は
生徒のみんなが飼っているペットたちが生徒の後に入場行進してきて、
……さらには動物園にいる動物たちも、この運動会のうわさを聞きつけて
やってくるからねっ。

どんどん、やってくるわよ~~っ!
私たちはこのあと、いろんなバリエーションの楽曲が
吹けるようにしておかなくっちゃね!」


「ええ……!?ど、動物も~~~っ!?」


「ええ、そうよ!――飼っているペットたちだけ置きざりだなんて、
それもさびしいですからね。……ちゃんと、大事にお世話している
ペットたちだから、一緒に加わりたいみたい。」

……わたしが、目を丸くしながら、おそるおそる、
こんな気になった質問をしてしまった。


(―――でも、その質問がいけなかったと、
わたしはそのあとに知るのだった。)


「あの……、じゃあ、先輩。

……学校に、メダカが職員室に飼ってありますが、あの魚は、
どうなるんでしょうか?……そのメダカは、加わったりは、
しないんでしょうか…?」

「おっ、いいところに気がついたね~~っ!そのメダカは……。」


「ん……?」


わたしが――さっきよりもちょっとだけ、
運動場のようすが変わったような気がして、ふいにそっちを見た。

先ほども、涼しくて快適だったのだけども――。

なぜかもっと、涼しさを感じるようになったというか……、
“水っぽさ”を感じるようになったのだ……。


そして……、その理由は……。


「ああぁ、来ちゃったか―――。

……私たちがいま、メダカの話をしちゃったから、
『自分たちの出番が来た!』とおもったのか……、もう早々と、
来ちゃったみたいだわ~~っ。」


「え……、“来ちゃった”って……??」


「なにって、メダカよ――っ。職員室の、メダカたち。

お世話されてるだけじゃあ毎日がヒマだから、隙あらば、
いつか学校の行事にも参加してやろうとたくらんでいる、
あのメダカたちよ~~っ。」


「え……、え゛ぇえぇ!!?」

さも当然、という顔つきで話していく先輩の様子を見ていて、
わたしはとっても驚いた―――。

……そうだ、思い出した。


この横にいる先輩の顔は――、わたしが夏休み期間に、
メダカの飼育係を1日担当すると立候補したときに――……、


希望した人たちがみんなで集まって話を聞いていって、
……そのときの、2年生の、代表の係の女の子の先輩だっ!!


……わたしが、くるりと学校の校舎のうしろを振り返ると―――。
そこには、……目をうたがうような光景があった……。


「あ……、あわわ……。」

 

ザッパ――――ンッ!!

…学校の校舎のうしろから……、まるで、サーフィンをするかのように、
とてもいい波がやってきた………。


その水面のなかにいるのは……、やはりというか――、
当然のごとく……、そのメダカ達だった……。

(…しかも、ちょっとだけ巨大化したメダカたちだ……。)


その水が……みるみるうちに運動場へと広がっていく……。


「あぁ――あ。
……これじゃ、陸地での入場行進は、水だらけになっちゃうわね~~っ。
…仕方ない。このあとは、『夏の海水浴バージョン』の、
入場行進の楽曲で演奏することにしましょうっ。」


横にいる先輩が、機転を利かせて、淡々とそう言った。


運動場では――…、学校の先生たちが、みんなにつぎつぎと、
浮き輪やサーフボートやゴムボートなどを配っていた。


小さいきょうだいの子どもたちは、きゃっきゃっと、
とつぜんの水の登場にはしゃいでいた。


(あぁ……、夏の、水槽の……メダカの魚たち。おそるべし……。)


―――魚たちは、気楽でいいなあなんて思ってごめんなさい……。


…それから朝、目が覚めて起きて、
わたしは、今日の職員室のメダカの飼育当番の子達に、
ねぎらいと…敬意の気持ちを願うのだった。


    (おわり)

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