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アーネスト番外編スピンオフ/ナヲズミ編(11)

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第11話

とうとう、最終選抜の10名のうち――
残りの1名の名前が発表された。


名前を呼ばれたその彼は、喜ぶよりも先に、


「本当に!?…本当に、自分が!?」
「名前を呼び間違えていないですか?!」と
しきりに確認をしていた。


そして、その呼んだ名前が、
自分であることに間違いがないと分かると、

ようやく「オーマイゴッド!!」と
喜びと驚愕の気持ちがあふれてきて、歓喜の言葉を発した。


母国語で、「あぁ!神さま!今日が、
――自分にとって、最高の……、最大の日です!」


と、彼の人柄や母国の文化をあらわす言葉を
大声で叫んだ。


前に出てきてくれた彼に、
まず先に握手を大いにかわしたあと、

発表した50代の男性が、みんなに向けて説明した。


『みんなもご存じの通り、…彼は、明るさや
社交性を突き抜けて
……ふだんはどこか、抜けている。』


その性格を知っているといった彼の友人や仲間たちは、
すこしだけ口元が笑った。


『けれども、彼は、最後まであきらめなかった。

……その自分の性格により、…もしも、
自分が宇宙飛行士のパイロットに選ばれたときに、

自分の抜けている性格のせいで、
仲間たちを危険にさらしてしまっては大変だと―――

彼は、考え続けた。


そうして、来る日も、来る日も、自分は
これでいいかどうかを、考え続けていった。


――すべては、
『パイロットの、仲間たち』という、考えのもとに。』


そう話しながら、選ばれた男性の肩に、手をのせた。


『…彼がすごかったのは、その努力や、
自分の性格や特徴に甘んじなかったことだけではない。

……もちろん、自分自身をかえりみることには、
評価をしているよ。


……でも、それだけではなくてね。』


一同が、彼のことを、見ていった。



『……彼は、「自分がパイロットになるために」
努力をしつづけてきたかというと――、すこしだけ、違うのかもしれないと思ってね。


それは、「パイロットに、なれるかどうか」といった視点ではなく、

「パイロットになっている自分」に、
「同じくパイロットとして選ばれた仲間たち」は、

自分を信頼して、慕ってくれて、
安心してくれるかどうかを基準に、考えていたことだ。


…そう。「自分自身の夢を叶えるために」というよりも――、


「同じく宇宙飛行士として選ばれた、仲間たちのために」
物事を考えていたというのが、1番の着眼点さ。』


…そう言われて、彼本人も、選考の男性のことを、一瞥した。


『ほんとうのことを言えば、
彼よりも能力が優れている候補生たちだって、
何名もいた。――だから、最後の1名の選考には、大いに悩んだよ。


……誰を選ぶかどうか。……誰を選んであげるべきか。


……しかし、最後に1人ずつのことを考えて精査していくうちに、
…この彼は、……そういえば、このような考え方で取り組んでいたと、
思い出したのさ。


――宇宙空間は、時に過酷だ。
思ってもみない、想定外のことだって、起きるかもしれない。


……けれども、そういった場面のときに、
彼がそこに居てくれれば、――持ち前の性格と、仲間を思ってやれる性格とで、
状況が改善するんじゃないかと、信じるに達したのさ。

……みんなのことを、1人ずつ見てきたから、そう思えた。』



その言葉を聞いて、選ばれた彼だけでなく、
そのほかの候補生たちにも響いているようだった。

『…だから、私は彼を、最後に推薦した。
――その結果、…最後の1名を、彼に選ぶことにした。


――さあ、最後の1名、おめでとう。


……これで、10名全員の発表が終わったよ。
みんなで、この10名の、新しく決まったパイロットたちを、
たたえてあげよう―――。』


パチパチパチ……と、拍手が一斉に鳴り響いた。


一同が感動している場面で…、ナヲズミは、

その場で自身の心が
とまってしまうのを感じた――。


その情景に、感動をしたからではない―――。



何が起きているのか、……だんだんと、頭の中で
整理がつかなくなっていったからだ――。


…頭の中で、思考が追い付いていかなくて、


感情も

しだいに混乱していくのを
自分1人だけが知っていった―――…。


(あぁ……、もしも、

『自分が選ばれなかったときは、サポートスタッフの道でも
大いにいいのかもしれない』なんて……、


どうして思えたものだろう……。)


実際には、これほどまでの、感情を抱えてしまうと
いうのに。


もしも残りの枠で、
自分の名前が呼ばれなかったとしても――、

自分は精一杯やってきたんだと、自信を持って、
また次の道へとむかっていけると、


……どうして

先ほどまでの自分は、
信じていられたのだろう。


ナヲズミは、自分の片手を、口元へと覆いかぶせた。



(……こんなにも……、自分が……


はげしい気持ちを
抱えてしまうことになるだなんて………。


…さっきまでの自分は……、
どうして…予測が出来なかったのだろう―――……。)




***

ナヲズミは、これまでその彼を遠巻きに見ながら、
「自分よりも劣っている」と、どこかでいつも考えながら、
過ごしていた。


それは……自分が内心そう思っていることに、
わずかに自覚をしながらも……、

でも取るに足らないことだと思っては、
これまで気にしないふりをして過ごしてきた。

自分が持つ、「自分のほうが、相手よりも優れている」という、
無意識の感情に、フタをしては、過ごしていた。

なぜならば、彼とは直接 距離の近い関係性ではなかったからだ。


(ときに、ディスカッションなどで
同じテーブルを囲むことになったときは、

他の人々と同じように彼と話はするが、
それ以外の日常生活の時間では、
彼と過ごすことはなかったからだ。)


……いや、あるいは、日常生活の時間で彼と過ごす場面が
少なかったからこそ、ナヲズミ自身の中で、彼に対する
「自分よりも劣っている」という、表面的な部分で持ち続けることに
なったのかもしれない…。


――…ナヲズミは…、いま、彼が選ばれたことによって、
…先ほどまでの、自分の考えをくつがえされてしまうことになった……。


***



*******


「よし、それじゃあナヲズミ。ヒロキ。
   ちょっと休憩するか。」


「あっ、おれ、お茶入れるよっ。
  兄ちゃんはそこに座っててっ。」


父がそう言ったのをきっかけに、
ナヲズミと、弟のヒロキと、父の3人で。


1階の片づけをしていた手を止めて、
リビングのテーブルに座って休憩をとった。


「今日の午前中、イクミ叔母さんからもらった和菓子があるから、
それを頂こう。ヒロキ、それも冷蔵庫から出してくれるかい?」


「うんっ、分かったっ。」


イクミ叔母さんは、母のフユミの姉だ。

フユミが他界してから先も、父たち家族のことを
ときどき気にかけてくれている人だ。


『いつも、すみません。ありがとうございます。』

和菓子の箱を父が受け取って、叔母さんがこう返した。

『いいのよ。私たちの所には
自分たち夫婦2人だけで、子どもも居ないし。

……いつも伝えているけども、――その分、伯来さん達の
家族にお裾分けできればいいと思っているのよ。』


ヒロキがお茶を3人分いれて、
それから和菓子の袋もトレイに乗せて、2人が座る
テーブルへと持ってきた。


「は~い、お待たせ~~。」

「あぁ、ありがとう。ヒロキ。」

「   堂か。懐かしいな。……子どもの頃は、
母さんがよく買って来ていたけれど。

――自分も北海道の地元を離れてからは、
なかなか食べる機会も無くなるものだな。」


感慨深い様子で、ナヲズミが、お皿の上のおはぎを眺めた。


「うんうん、――やっぱり、地元のものは、
地元の場所で食べれるのが一番だよねっ。

は~~、久しぶりに食べたけど、やっぱり
   堂の和菓子はおいしぃ~~。
使ってある小豆の豆の味がいいよね~~っ。」


幸せそうなヒロキに、父が思わず笑って答えた。


「あっはっは。――そうだね。
……ヒロキは、レストランで働いてるから、

やっぱり美味しいものとか、いい食材の味が
分かるんだろうね。


ここの家からは、ちょっと距離があるから
なかなか代わりに買いに行ってあげることが出来ないけど、
父さんも、ここのお店の和菓子は好きだな。

……手作りならではの、良さがあるよね。」


地元の手作りの、和菓子屋のお店。

母の実家の住所からは近くだったので、よく母が、
結婚してからナヲズミとヒロキの2人が生まれたあとに、
子ども達にも食べさせてあげたいとよく買っていたのだ。


カチャ……。


ナヲズミも、食べ終わって、お皿にフォークを置いた。


(つづく)

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