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アーネスト番外編スピンオフ/ナヲズミ編(10)

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前回のあらすじ


第10話


いよいよ、
100名の中から 最後の10名が選ばれる――。


候補生のだれもが待ち望んでいた、
その運命の日が、やってきた。


選ばれたものは、有人飛行の月面着陸にたずさわる
宇宙飛行士のパイロットに、正真正銘 決まるのだった。


お互いの顔を見あったり、みんなのことを、よく見ておこう。
しっかりと、全員のことを胸に刻んでおこう。」


パチパチパチ……


先ほどまで 緊張で張りつめていた場の空気が、
少し穏やかなものへと変わっていった。

(1人1人の表情にも、すこしだけ和やかさが戻ったようだった。)


……皆が、固唾をのんで、見守っている……。


そうして、まずは伝えに来た
50代の役員の男性が、みんなの前で
こう説明をした。


『……では、これから最終のメンバー10名を発表する前に。

……みんな、ここまでよく、
ほんとうに頑張ってくれた。


訓練で体や体力面をつかったテストや、
日々の学習など、……ほんとうに、みんな真摯に、
よく取り組んでくれたと思う。


先に、ここにいるみんなで、全員の、これまでの健闘をたたえて
拍手をしよう。――さあ、いいかね? では、どうぞ。


国や年齢を超えて、性別をこえて、
これまでの期間、ほんとうにみんなが
よく取り組んでいたのは、確かなことだった――。

……拍手もおさまったところで、候補生100名に向かって、
男性がこう言った。


「…今回、諸君が頑張ってくれたおかげで、
――選考は、おおいに難航した。


だれを選ぶべきか。だれを選んであげたら、
このプロジェクトは成功を導き、
かつ安全に、1人1人のパイロットたちの役目も進み、

そして宇宙飛行中の時間も
円滑に進んでいくのか。


――いやはや、全員の1人1人を選んであげたいところだが、
それが出来ないのが、現実だ。


……宇宙飛行士のパイロットの最終決定というのは、
いつもおおいに、我々 選考委員でも、頭を
ひねらせるものだよ。」


説明をする50代の男性が、くるりと向きを変えて、
候補生たちの前をいちど ゆっくりと歩いたところで、また
中央の位置にもどった。


「――しかし、選ばれなかった者たちにも、1つ救いはある。


…それは、希望する者は、
パイロットに選ばれなかった者であっても、

……これから先も、本格的な有人飛行の月面着陸までの
その日にむけて、

サポートスタッフとして
関わっていける道も用意している。」



候補生たちに、小さな歓声が上がった。


「だから、選ばれなかった90名の仲間たちも、
それですべてが終わりというわけではない。


これまで学んできた知識なども、無駄にはならずに、
ちゃんと役立てられる場面もある。


でも、長くここで滞在し続けてきたから、
自分の故郷の国へ戻りたい者は、
無理には引き止めないけれどもね。


きみたち1人1人が、自身で望めば、
サポートスタッフとしての道もあるということさ。

……そちらはまた、おいおい話すとしよう。


……では、みなの者、心の準備はいいかね?」



―――とうとう、話も、本題へと移っていく。


いよいよ最後の、……10名の、発表の場だ。
これにより―――、すべてが決まっていくことになる。


喜びも、かなしさも。


……あとは、もしも選ばれなかったとしても、

その後の選択は
自分次第といったところか。


…ナヲズミは…、自分が選ばれるかどうかなんて……、
この緊張した場面では…、予想することはできなかった……。


それでも、自分自身も、これまでの訓練や学習を、
仲間たちと一緒に頑張ってきたことには、
変わりなかった。


―――それだけはまぎれもなく、言えることだった。


…自分が、ただひたむきに、努力してきたことが、
どんな形を結ぶのか……。


……どんな結論へと、たどっていくのか……。


この場ではまだ分からない
それらを片隅におきながら、

今はただ、心を無心にして、
1人ずつの名前の発表を聞くだけであった――…。


『…では、まずは、栄えある1人目の発表といこう。
…呼ばれた者は、前へ出てきて。


1人目の、トップバッターの発表は、この彼です。
――どうも、おめでとう!!』


――呼ばれた男性が、口をあけて、大きく驚いていた。


彼の周りにいた人々や、
…彼とよく過ごしていた仲間たちは、
その発表に、大いに驚いて、歓喜して、拍手を送った。


みんなの前へと出てきた男性が、
喜びと、驚きの表情を浮かべながら、
祝福を受けていった。


『おめでとう。――よく頑張ったね。
……きみは、年齢もひとまわりみんなよりも高かったけれども。


それがきっと、リーダーシップを取ってくれるだろうと、
審査でも一致したよ。おめでとう。』


そう言われて、発表した男性が彼に手を差し出して、
握手をした。
選ばれた男性は、感極まった様子で、
様々な感情が織り交ざった笑顔で はにかんでいた。


『では、つづいて、2人目の発表だ。
……2人目は、女性の訓練生です。……こちらの方です!』


――名前を呼ばれた瞬間、両手を口元に当てて、
目を大きく見開いた女性。


『さあ、前へ出てきて』とうながされて、
彼女らしい ひょこひょこした特徴的な歩き方で、
みんなの前へと出てくる。


『やあ、おめでとう。…ずいぶんと、頑張ったね。
……これで、君の子ども達にも、誇れるかい?』


「あ……、あたし、自分が選ばれるか、自信がなくて……!
だって、みんなすごく、優秀だから……!

……だから、あたしに出来ることは、
『ママがチャレンジすることは、誇らしいことなんだよ』って……、


たとえ、子ども達にパパがいなくても、
引け目を感じることは
ないんだよって伝えたくて……。


ただ無心で取り組んでいくだけだった……っ。


自分がパイロットに選ばれるかどうかは、二の次だった……!
でも、こんなことがあるだなんて! …いま、すごく最高ーー!」


…彼女の、涙ながらに今の心境を語る姿を見て、

まだ選ばれていない人達も、まるで自分が選ばれたかのように、
もらい泣きで涙ぐんでいた。

彼女には、子ども達がいることで、そして自分の母や家族に
故郷の友人たちがいることで、つねに誰かの存在、

――1人ずつの状況や様子などを考えることに、長けていた。


…ときに、心配性になりやすいという短所はあったが、

それを克服したことで、いちどに様々な立場から
ものごとを考えられるという特徴から、

最後には選ばれたようだった。


そうして1人目の選ばれた候補者と同じく、
2人目の彼女とも、発表した男性が
握手をした。


――それから、3人目、4人目と、
しだいに発表される人数も増えていった。


ナヲズミはまだ、呼ばれてはいない。

けれども、名前を呼ばれて、自分が選ばれて、
大いに驚き、歓喜している人たちの様子を見ていると。


……自分の名前がまだ呼ばれていないことにも、
さほど気にならないことが、不思議な位だった。


…それだけ、この場が、歓喜と、驚きに
つつまれているということなのだろう。


宇宙飛行士の、発表の場面。



……記念すべき、歴史的な発表の場なのは、
間違いないことだった。


……その場にいま、自分が候補生の1人として
加わっているということだけでも、
とんでもなく、名誉なことなんじゃないかとすら思えた。


(自分は……、本当に、よく恵まれているな……。)


ここまでのことを振り返って、ナヲズミはそう思った。


それから、先ほどはじめに説明されていた、
サポートスタッフのことが頭に浮かんだ。


(…もしも、最後の10人までの発表を終えて、
自分の名前が上がらなかったときは、その道を選ぶことも、
場合によっては
ありなのかもしれないな…。)


それから、父と弟のヒロキのことを、ナヲズミは考えた。


(……サポートの道を選ぶことで、
ここまでやって来れたことの、2人への恩返しになるのならば、
そうしてみたい。

その反対に、なにか近くに来た方がいいのならば、
また帰郷する道も、考えてみてもいいかもしれない……。 


そのときは、また父とヒロキに相談をして、
決めることにしてみよう――。


…すべては、あと1人の、発表の場しだいだ―――……。)



ナヲズミは、
ふたたび前方を、くっと見据えた。


『…では、よろしいかね?
……ここまでの9名は、彼らに決定した。


……そうして、最後の1人を、発表するよ。


……さあ、泣いても笑っても、これが最後の1名だ。
…みんな、準備はいいかね?では、発表するよ。


最後は―――、この彼だよ。』


“彼”という呼び方をして、残っていた女性の候補者は、
『自分ではない』という表情をした。


一方、残っていた男性の候補者は、
『もしかすると、自分が決まる可能性も、まだ一縷に
残っているかもしれない』という表情をした。


……ナヲズミも、まだ名前が発表されるまでは、
完全に諦めるわけにはいかなかった。


『――さぁ、前に出てきてね。
……最後の1名は、この方だよ!おめでとう!』


その名前を聞いて、――ナヲズミは驚いた。


それが……自分の名前だったから…ではない……。




それは……

その選ばれた人物は……その男性は……、



ナヲズミが、かつて


『もしもこの先、最終選考で通れなかったとしたら、
彼は落ち込むのだろうな……』と思っていた、


まさに、あの彼だった。


(つづく)

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