宇佐見りん『推し、燃ゆ』をすすめるだけの記事




あたしは触れ合いとは思わなかった。現場も行くけどどちらかといえば有象無象のファンでありたい。拍手の一部になり歓声の一部になり、匿名の書き込みでありがとうって言いたい。


寝起きするだけでシーツに皺が寄るように、生きているだけで皺寄せがくる。誰かとしゃべるために顔の肉を持ち上げ、垢が出るから風呂に入り、伸びるから爪を切る。最低限を成し遂げるために力を振り絞っても足りたことはなかった。いつも、最低限に達する前に意思と肉体が途切れる。


あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。


というわけで宇佐見りんさん『推し、燃ゆ』芥川賞受賞おめでとうございます。何作が出したらそのうちとるだろうと思ってたけど早かったね。

以下ちょっとした感想

主人公は推しを推すことがいきがいの子で、日常生活や家族関係もままならない感じが描かれる。日常がうまくいかない中で推しを推すことはたぶんこの子にとって絶対な何かでそれが推しの炎上事件によって揺らいでいく。その描き方がネットでなにかにちょっとでも依存してる現代っ子っぽい感じで良い。

この本はただ推しに対する愛や炎上にまつわる心境の変遷を描くだけではなく、推しが変わろうとも主人公の生活は続けていかないといけない、生きてかないといけないわけで。推しに依存する子を書いた作品ではなく、推しがいなくとも続けなきゃいけない日常を描いたそれなりにつらいものを見せられる作品だと思う。

推しが変わってしまおうとも生きていくことができるなら推しってなんだったのだろう?という主人公の子の答えは最後に書いてあると思うので読んで確認しましょう。



個人的にはなにか特定の人を推したような経験は実在するしないに関わらずあまりないので(すきな作品だろうとキャラ内には優劣をつけないようにしている)、この子の推しにまつわる思考はわかる!とはならないけども、程度の差はこんな子はたぶんいるんだろうなぁと感じられる本。


P.S. 上の作品と全然関係ないですが推しにまつわる業の深い作品といえば笑ゥせぇるすまんの『看板ガール』だと思う。

推しと喪黒さんの力でお近づきになるも案の定どーん!されて悲惨な目に遭う→でもこの後で推しは変わってしまったのでまた喪黒さんに頼もうとなる数少ない喪黒福造が勝てなかったようなエピソード



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