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800文字プラクティス#01【デイ・オブ・ザ・データセンター】

 田中は拳銃を抜き、闇雲に撃ちまくった。碁盤目状に並ぶサーバの間に銃声が響く。馬鹿な奴だ。それは自決用と研修で教えたのに。

「来るなァ!」

 銃声に刺激され、“それ”は猛然と飛び掛かった。

 厚み10数cm、幅・奥行1mほどの金属の箱。LANケーブルの触手で田中を絡め取る。元はCDドライブらしき裂け目が上下に開き、田中の顔面を齧り取った。

 サーバ耐用年数が百を超える。ヒトはその意味をよく考えるべきだった。長い年月を経たモノには、魂が宿るのだから。そして粗末にされたモノに宿るのは、悪しき魂だ。

 田中の体が崩折れる。牙の間から血と脳漿が滴る。筐体前面のLEDランプは目玉になっていて……俺を見た。

 俺が早い。手首の動きで狙いをつけ、水圧銃をトリガー。1ミリ未満の噴射口から、レーザーの如く浄化聖水が発射される。

 聖水がサーバを貫通。バチバチとショートする音。短く痙攣し、触手が弛緩。田中の死骸の上、沈黙したサーバの通気穴から、緑色の腐肉がでろりと流れ出る。

 俺はインカムに怒鳴る。

「田中が殺られた。一人で目標の捜索とデータ採取は不可能だ。撤退させろ!」

「営業から“2人日で可能”と聞いているわ。つまり、伊藤さん一人でも2日あれば出来るのよね?」

 俺は営業を、そして通信相手を呪った。

 数メートル先のサーバラックから何か出てくる。のたうつ無数のLANケーブルが生えた筐体。スイッチか。ケーブル先端の貪欲な口で、獲物を生きたまま貪る。

「データ採取中は無防備だ。せめて応援を寄越せ!」

「実はもう派遣してあるの」

 その時、足元の存在に気付く。拳大の半球形ボディ。赤い目。丸い背中が展開し、鉛筆の芯ほどのミサイルが射出される。ケーブルに着弾、複数本を吹き飛ばした。悶えるスイッチ。

「この案件はその子マウスの試験も兼ねてるわ。良い結果を出して頂戴」

 マウスと目が合う。新しい相棒は小さな手でサムアップした。


つづく


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