ラブレターの催促しちゃう系女子。
前回の記事の続きです。
ニシウラ君と二人きりになることに成功した。
やったね!
……しかし、私のミッションは、彼と二人きりになることではないのだ。
ニシウラ君は、ラブレターは読んだのか。
それともまだ気づいていないのか。
それを確認したかった。
教室に緊張した空気が流れ、私はニシウラ君に言う。
「突然、呼び出してごめんね」
すると、ニシウラ君はこう言った。
「昨日は、部活で来られなくてごめん」
ああ、そうか。
部活か。中1のその頃は部活に入っていなかった私。
なので、クラスメイトが放課後に部活、という発想がなかった。
そして私は思い切って本題に入る。
「あの、手紙、読んだ?」
ニシウラ君はぎこちなくこう答える。
「うん。読んだよ」
「そっか! それならいいんだ」
私は読んだという事実だけを聞いて、満足した。
「ありがとう。用事はそれだけだから」とニシウラ君に伝えた。
ニシウラ君は帰り際、「それじゃあ、バイバイ」と教室を出て行った。
私はそれだけでうれしかった。
そもそも、この会話自体が貴重だったのだ。
だって、いつもニシウラ君は丁寧語で話しかけてくる。
それなのに、こんなに砕けた口調で接してもらえるなんて。
私はよりニシウラ君が好きになってしまった。
そんなこんなで、私は幸せいっぱいのままその後を過ごしたのだ。
ニシウラ君に告白をして良かったなあと思った。
しかし、1週間後、ふと気づいた。
そういえば、ラブレターを読んだかどうか聞いただけで、ニシウラ君に返事は聞いてないな。
とても大事なことである。
せっかく二人きりになれたチャンスがあったのに、返事を聞き忘れるというか、返事を聞く、という概念が当時の私には存在しなかった。
付き合うっていうことが、いったい何をするのかピンときていなかった13歳。
しかし、誰かと付き合いたいという以前に、ニシウラ君の返事を聞いてみたいと思った。
でも、もうニシウラ君を呼び出せない。
だって放課後は部活なんだから迷惑だろう。
昼休みとかに他の休み時間でもいいのだけれど。
こっそり呼び出すってタイミングと勇気も必要。
どうしようか、と考えた結果。
良い方法が浮かんだ。
電話である。
クラス全員の電話番号が載った連絡網。
ニシウラ君に電話をかけて聞いてみればいい。
ちなみに、電話はもちろん自宅の電話だ。
自宅の電話は両親が出る確率があり……。
当時は、友だちと電話をする時も、事前に「〇時頃に電話をするね」と伝えいたのだ。
しかし、この時の私は、電話をかけるという緊張感ですっかり忘れていた。
両親が出てしまうという確率に……。
意を決して電話をかけた。
夜6時頃だったと思う。
ちなみに、我が家の晩ご飯は遅く午後8時頃だったので、夜6時なら迷惑にならないだろうし、ニシウラ君も出ると思い込んでいた。
電話をかけ、電話口に出た声を聞いて。
私は自分の考えが非常に甘かったことを思い知った。
電話に出たのは、ニシウラ君のお母さんであった。
なんかめっちゃ気まずかったけど、私はニシウラ君のお母さんに、なるべく丁寧な口調でこう聞いてみた。
「〇〇くん(ニシウラ君の下の名前)はご在宅でしょうか?」
するとニシウラ君のお母さんはこう言った。
「〇〇は今、塾に行っております」
そういうわけで、「失礼しました」と電話を切った。
ニシウラ君、塾に行ってるのかー。勉強できる人はちがうんだなあと思った。
それから数日後。
私はニシウラ君から手紙をもらった。
どういう経緯で受け取ったのか忘れてしまったが、手渡してもらった。
スパイが重要な書類を渡すようなやりとりで、さっと渡された気がする。
で、手紙はニシウラ君の丁寧な字で、「今は誰かと付き合うことはできない。でも手紙はうれしかった。お互いに勉強をがんばろう」みたいなことがいつもの丁寧な口調で書かれてあった。
なんだか体よくフラれたような内容だが、本当にニシウラ君の本音っぽいなーとは思った。
しかし、家にいきなり電話は良くなかった。お母さんが出たら気まずいと思う。
だからこそ、私はもう気軽にニシウラ君を呼び出す勇気も目を合わせる勇気さえなくなってしまった。まあ、フラれたからね。
こうして気まずいまま夏休みに突入して、私は入院先で恋に落ち、そしてまたフラれるわけだけど。
ニシウラ君とは、それ以降もずっと会話をすることがなかった。用件がある時以外は話さなかった。
お互いに避けているのではなく、非常に気まずい、という状態だった。
中学三年生になった直後。
私とニシウラ君は、階段ですれ違った。
お互いに一人だったし、周囲には誰もいなかった。
「お久しぶりです」とニシウラ君は私を見ないままでそう言った。
「久しぶりだね」と私も返した。
すれ違う時、ニシウラ君の顔が真っ赤なのが見えた。
照れくさいんだろうなあと思った。
事実、私も非常に照れくさかった。
それが私がニシウラ君と交わした最後の言葉だった。
それから私は二年生も三年生もニシウラ君とクラスは離れたし、もちろん会ってもいない。
だけど、私はニシウラ君に告白をしたことも、うっかり家に電話をかけてしまったことも、ラブレターの返事をもらえたことも、キラキラした思い出として残っている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?