煩悩(5)ツーショットの呪い

携帯のカメラ機能は、めざましい進化を遂げていますね。ガラケーの時代には人に撮ってもらうか、大体の位置取りを憶えて感覚で撮るしかありませんでした。それがいまや、自分の顔を液晶で確認しながらニッコリ笑顔をスマホに収められるようになりました。

そんなご時世に、ご時世だからこそ、私たち(少なくとも私ひとり)は「ツーショット」がニガテでした。観光名所で自撮りしているカップルの、あの独特の雰囲気。二人の幸せな世界というだけですべて許されてしまうような空気がニガテだったんです。

もちろん、私も友人と自撮りをすることはあります。ばっちりニッコリ笑えます。しかし、どうしても隣に大好きな男がいると考えると、奇妙なくすぐったさが勝ってしまうのでした。

5年間でいろいろな所に行きましたが(詳しくは煩悩(2)をどうぞ)、一度だけ彼から「撮る?」と、”ツーショットを撮ろう”という明らかなお誘いを受けたことがあります。秒で「別にいい」と断りました。

そのときに、可愛く「うん」と言える女でありたかった。

恥ずかしがりながら彼の横に移動するような、不器用だけど素直な女でいたかった。

これこそ後悔でしかありませんが、二人で自撮りしているカップルの姿をみる度に、後戻りできない「大人」になる前に、5年目の彼氏とツーショットを撮ってみたかったという後味の悪さが襲ってきます。

誘ってくれたとき、たぶん彼も恥ずかしかったのでしょう。投げやりな言い方で誘ってきて、せっかく勇気を出したのに瞬殺で断られてちょっと悲しげだった気もします。

恥というか、プライドというか、そういうものを簡単に捨てられる女性ではなく、本当に申し訳なかったと今だから思えています。

そんな私のスマホには、未だに彼がひとりで映っている写真がたくさん保存されています。写真嫌いの彼でしたが、カメラを向けたときには困ったような笑顔を見せてくれました。

はやく、消去しないと。スマホからも、私からも。

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