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Taylor twins −ショートショート−

1年前 tailor twins にてーーーーー

「颯(はやて)それは本当なのか?
花さんはどうするんだよ?」

ボクの頭は真っ白だった。
いつか、記憶が無くなるなんて…
花…キミの事を忘れる日が来るなんて…。

『翔(かける)、最後のお願いを聞いてくれないか?これは、お前にしかできない事なんだ』

「…勿論だよ…当たり前だろ。
僕達は双子だ。兄さんの気持ち…今痛いほど感じてる…だから、辛くて 辛くて 」

ボクは翔(かける)の手を力の限り握りしめた。

『頼んだぞ、翔。』

⌘⌘⌘

 颯(はやて)、今日は私の22回目の誕生日だよ。
あなたがプレゼントしてくれた水色のワンピース着てるの。
とっても気に入ってる!
これに合う、ブローチが欲しいなー。

「よし!買いに行こう!!」

 家を出たのはいいけど、ブローチなんてどこに売ってるの?
ちゃんと調べるべきだったと、少し後悔しながら、信号待ちをしていた。

 どこかで見たことがある風景…
記憶を辿っていたら、信号が変わってしまった。
ふと耳元で颯の声が聞こえたような気がして振り返ったけれど、それらしい姿はなかった。

「まさか、そんなわけないよねー。」

 独りごとを言いながら歩いていると、素敵なワンピースが目に飛び込んできた。
真っ白でいたってシンプル。胸にワンポイントの花が刺繍されている。
買うつもりはなかったけれど、綺麗なAラインが自分にも合うんじゃないかと思って、ちょっと試着してみたいと思った。

「こんにちは。すいません、あの白いワンピースを試着したいんですけど、いいですか?」

『いらっしゃいませ。』

「えっ? …」

言葉が出なかった。
目の前にいるのは一年前に突然居なくなった颯…。
全身が震えてきた。全部の感情が一気に私を襲ってきた。

『お客様、大丈夫ですか?
宜しかったら奥で少し休んでください。」

と颯らしき男性が言ったが、もう頭の中はグチャグチャでまともに歩けやしない。
とにかく言われるがまま奥に行って、そこにあった椅子に座った。

『驚きました…まさかお店に来るなんて…
花さんですよね?』

この人は一体何を言ってるの?
花だよ。一年前に…

『僕は、翔。そう、颯の弟です。
僕達は一卵性双生児なんです。
 いま、花さんが着ているワンピースは、兄の颯があなたの誕生日にプレゼントしたくて、自分でデザインして作ったものですよ。
兄は自分の病気が……』と説明し出した。

 ボーっとしながらも、颯の弟だという翔君の言葉に耳を傾けるしかなかった。

 ようするに、颯は病気だったのだ。
私の事を思って目の前から消えてしまったという事なの?
 じゃ、さっき横断歩道で聞こえたのは、気のせいじゃなかったんだ!

 そう思ったら居てもたってもいられなくなって立ち上がった。
だけど、それと同時に思い切り腕を掴まれた。

『行かないで、花さん。
兄はもうあなたを覚えていません。
勿論、この僕のことも…。
兄は記憶がある時に、僕にこう言ったんです』

「この水色のワンピースを花の誕生日に届けてくれないか。その時までボクの記憶がどうなっているのか、正直自信がないんだ」って。

颯じゃなかったの?
あの時すでに私は記憶から消えていたの?
そう思ったらまた涙が溢れてきた。

『花さん、あの白いワンピース。
兄が、颯が…時間はかかりましたが、あなたの為に作りました。
胸には花の刺繍がありますよね。
少しなりとも、記憶があったんだと思います。
きっとサイズもあなたにぴったりですよ。
着てください。兄の最後の作品です』

 病気の事を隠していたことは、本当にショックだったけれど、颯の深い優しさをしっかりと受け止めようと思った。

あなたからの誕生日のワンピースが、一枚増えた。
ありがとう颯。


おしまい

⌘⌘⌘

こんな内容でショートショート書いて!という可愛い妹の為に書き上げました✌︎('ω'✌︎ )

#ショートショート #掌小説
#才の祭 #才の祭小説

書くことはヨチヨチ歩きの🐣です。インプットの為に使わせていただきます❤️