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信頼とカフェラテのiPod


 私は私のiPodに全幅の信頼を置いている。

 私はいまでもサブスクではなく好きな曲を単体でダウンロードしている。プレイリストは敢えてざっくばらんに詰め込んで、普段はそれをシャッフルで流す。再生ボタンを押してイントロが聞こえたその瞬間、AI搭載してたかな? とか思う。まさか中に小さいおじさんが住んでいてディスクジョッキーしてるんだろうか、と考えないこともない。その日の私に必要な音楽を、私が聴くべき歌詞を、ドンピで流す私のiPod。

 iPodが朝の一曲目に選ぶ曲でその日の私を占っている。
 ああ、こういう日なのかあと考えながら、一日を始める。

 他にも、なにか、きもちが揺れうごいてとめどないときも、閉塞感を覚えて息苦しいときも、単にテンションを爆上げしたいときも、ハッピーなときも泣きたいときも、iPodのシャッフル再生ボタンを押す。ときには「あの歌が聴きたい」というのがないわけではないけど、私は私のiPodを信頼しているので、iPodが選んだ音楽を聴く。まあ、好きな曲しか入ってないんだけどね! だけど、そこがポイントなのだ。私の好きな曲のなかから、さりげなく、ふんわりと、いまの私のための曲を選んでくれる私のiPod。

「いまのキミにはこれじゃない?」

 iPodが、無作為に選んでくれるその一曲に、私は「好き」を噛みしめる。

 バッテリーが脆弱なiPodはすぐ力尽きるので、そういうときはYouTubeでランダム再生しているけど、アルゴリズムが働きすぎて「おまえこういうの好きだろ? よく聴いてんじゃん、オレわかってるよ」みたいな、私のことを理解しきれていない彼氏づら感があって「ん゛ん゛」って感じなので、やっぱりiPodでないとだめなのだ。そうじゃねえんだわ、YouTube。
 なんでもないふうを装って、黙ってそっと差し出されるカフェラテみたいなのがいいんだわ。
 たとえば私が落ち込んでいても、「何であなたこの曲選んでくれちゃったの?」って、ふふっと笑わせてくれるような音楽の選び方が好きなんだわ。


 フルワイヤレスイヤホンを購入したとき、試用してみたらiPodとの接続が悪くて「いまもう皆さんスマートフォンで聴いてますからねー、iPodだけじゃなくてウォークマンもたまに相性悪いワイヤレスとかあって」と店員さんと話をして、ちょっぴり悲しくなったんだけど。スマホは大事な相棒だけど、有能さがたまにキズだな。私のために音楽を流しつづけて、他のことをするとすぐ息切れしちゃうiPodが好きだよ。その不器用な感じがいとしい。賢くなりすぎないの。
 サブスクでは出会いが多すぎて、スマートフォンは出来すぎる。

 一年くらい前にツイッターで「私のことをよくわかっているiPod」の話をしたら「AI搭載感、ありますよねー! わかります」ってリプライをもらえたので、サブスク全盛期のこの時代だけど、自分が厳選した音楽を託した自分の音楽プレイヤーに全幅の信頼を置いているユーザーけっこういるでしょって思っている。

 私の音楽のためだけのiPod、私はこれからも持っていたい。


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