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ここではないどこかなんてない


ひどく落ち込み、一通り怒り尽くしたら、私を閉ざしてしまう。人が当たり前に営んでいる生活全てがどうでもいい気がしてしまう。投げやりなのではないと思う、ただ本当に「どうでもいい」と瞼を落とす。死ぬかわりに私は眠る。果てしなく混沌と眠る。ただ眠る。眠っていればたぶん朝は来る。否が応でも。否が応でも朝は来る。


noteの下書きが187もあって私の言葉の多くはこうして枯れてゆくんだなと思った。思ったことや感じたことをおまえは素直に書きすぎだと時折苦言を呈されるけれど、誰も私の言葉がどこにも芽吹かず無数に枯れてゆくことを知らない。心が閉じているのでいつもなら響く言葉も響かないまま、まるで言葉はあの鳥のように墜ちている。真っ青な夏空、美術館の磨かれた硝子戸にぶつかってそのまま死んでしまっていたあの鳥たち。そこに硝子があることに気づけず墜落したあの何羽もの鳥たち。何度となく私は生ぬるい死骸を拾って海に捨てた。鳥は、緩やかな波に沈んでゆく。今もあの硝子は鳥を殺しているのだろうか。美しいというのは残酷だなと、紺碧が光を呑んでゆくのを眺めながら思ったものだった。命を散らして、そうまでして磨く価値があるのかと。いや、私の心は美しいのではないけれども。それでも、例えば時に何かを殺してしまうのならば、静かに、研磨する必要はあるのだろうかとは思う。ことごとく枯れてゆくほうが好いのかもしれない。


1週間ほど延々とcakesに見る加害性とnote社が掲げる多様性の欺瞞について書いていたのだが、載せるのも馬鹿らしいのでこれもまた下書きの中にある。これはどうでもよくなってしまったとは違う。おまえが自分で考えろと思っている。どうして私がそこまで甘やかしてやらねばならない、背負って歩け、歩くその道を私はただ見ている。道が瓦解すれば私はもう後を追わない、いや、背中から激しく罵倒しながらまたその道を見ていくのかもしれない、それはその時にならねばわからない、二度と「その時」が来ないことだけを望んでいる。私は毎日、拗らせた企業マチズモがそこかしこで炎上しているのに辟易して激怒して疲弊している気がする、日本の未来は遠いように思う。これまでにも増して遠いように思う。これだけは否が応でも朝が来るとは思えず、だが地獄だとしても生きてゆくしかない。迫り来る睡魔に眉を顰め、重たい瞼を擦りながら。

美しさを前に墜落することはあっても、地獄だと知っていて羽を休めることはないだろう。「ここではないどこか」を私は信じていない。




「ここではないどこか」

そんなもの、と独りごちる。思春期に捨てたよ、君は知らないかもしれないけれどね。なぜなら私が思春期に最も読んだ本は、小野不由美の『魔性の子』なのだ。「ここではないどこか」などどこにもないから私は喘いで生きてきたのだし、闘争を厭わず人を傷つけ血を流し、またその痛みを馬鹿の一つ覚えに、愚かにも抱え込んで這うようにして日々を超えてきたのだ。たまに言う人がいるよな、もっと別のところで生きてゆくべきだと私に言う。どうでもいいんだよ、どうでもいいんだよな、だってほら米津玄師だって歌っているだろう、彼もまたいつもどこにも行けないと歌っている。みんなそうして、どうにもならない日々をその場所で足掻いている。

話は逸れるけれども、私は、小野不由美という作家に思春期から今日までずっと傾倒している。小野はホラー作家であり、かつては読者から怖い話を蒐集していたが、以前取材で「理性的に考えれば心霊というのは存在しないと思っている」と公言している。彼女は堅実なリアリストで、物語の構造に関心を持ち、地に足のついた理論を好む。魅力的な登場人物を描写する作家だが、当人はキャラクターを書くことにはさほど関心がないとも話していたと思う。私はそんな彼女の作品から多大な影響を受けて生きている。小野がいなければ私は生きるのをやめていた。

ある人からは、紛争は創造だと教わった。闘うことは学ぶことだ、学ぶことは生きることだ。あの鳥のように我が目に映らぬ美しさを前に墜落するまできっと私はここにいるだろうね。無数に言葉を枯らしながら、奇跡的に咲いた一輪を君に差し出しながら。ここにいるだろうね、きっと。



頭の中が忙しない、日々何かを思い煩い、ぬいぐるみを抱きかかえた私は眠ることを選ぶ。眠ったところで悪夢しか見ない、悪夢しか見ないけれども。今朝は出口のない空間を走り回っていた。浸水する建物、逃げ惑う人、探しても見つからない仲間、ひとり取り残された私はどこまでも果てしない階段という階段を駆け上っては、駆け下る。夢だとわかっている。だから私は走っている。現実ならばきっと諦める。そんな気がする。


うん、まあ、三浦界の顔面が好きだと言っているうちはまだ書くだろう、ここで。眠いので寝る。そんな1週間だった。明日も朝は来る。否が応でも。


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