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淡い恋の余白

18歳の頃に好きだった人に、久々に連絡を取った。
当時、半年間片想いをして、やっと付き合えたものの、3ヶ月くらいで振られてしまったという少し苦い思い出の彼は、今、音楽業界でちょっとした有名人になっているそうだ。

作詞作曲編曲、そして全ての楽器の演奏をしている彼の動画を見て、これが努力し続けた人、音楽を諦めなかった人なのだなと、納得せざるを得なかった。
だって、一緒にいた頃は、ギターボーカルしかしてなかったもんね。
元々才能のある人だったけれど、この10年と少しの間に、すごく努力したのだなと思った。

「俺、いつか君がびっくりするような曲を書くよ」
付き合いたての頃、駅まで送ってくれた帰り道でそう言ってくれた風景を、鮮明に覚えている。

それから1年も経たずに、彼は自分のバンドでメジャーデビュー直前までいった。彼の作る曲は圧倒的に良かったし、他の同世代のバンドと一線を画していた。

久々になんていっていいか分からなかったけど、彼の努力を讃えたかった。
「動画見たよ、すごく良くてびっくりした」「ほんと?ありがとう」
そんな何気ない話のまま、短いラインのやり取りをして
「無理しないようにね」「そっちもね」
そんな風に終わった。

私の一言で終わったはずなのに、最後に、「相手が送信を取り消しました」という通知だけ来たのだけれど、何を言おうとしたのかな。
単純に間違いだっただけかもしれないけれど、彼はそんな人。
いつも、余白を残す人だった。

付き合えたけどずっと片想いで、結局よくわからないまま終わった若い恋。
彼はずっと遠くを見ていて、私には手の届かない人だった。
だいたい、片思いの相手なんてそんな感じだ。掴みどころがない。
掴めずに終わったから、余白ばかりが残ったから、きっとずっと好きでいられるんだろう。それは、憧れに近い気持ちかもしれない。

結局、彼の努力を讃えたくて連絡したのに、逆に私なんかが褒めるって失礼かな?とか思ってしまって、あまり言えなかったし、何の連絡だったんだかよく分からない感じになってしまったけど、とにかく、これからも元気で頑張って欲しいなと思う。

多分もう一生、会うことはないだろうから。
どうか幸せに。

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