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10 能力の代償

天災から3日後、赤城村の事件からさかのぼること約3カ月前

『こんなんじゃ死ねない…こんなんじゃ…』
『ナオミ先輩せんぱい?…何やってるんですか!』
 
そこは病院のナースステーションだった。
 
『――ちゃん、知ってるでしょ、このぐらいじゃ死ねないの』
『…私はその名を捨てました』
 
ナオミ先輩と呼ばれた女性は床にしゃがみ込んでいた。
床にはたくさんの刃物が落ちていた。
血の跡はあるが、その腕には傷ひとつ無かった。
 
『それより先輩。あなたはまだここにいてもらわないと』
『だけど私、助けられなかった!』
 
女性はこぶしを床にたたきつける。
 
『治せると思えば治せる能力…でも治せないと思ってしまったら治せない』
『そうよ。サナちゃんもカエデ先生も助けられなかった。他にも沢山!』
『やめてください!!』
 
女性がまた刃物を手にしようとするのをクーが止めた。
 
『この能力のせいで…自分の力では死ねない…』
 
女性のほおから涙がこぼれ落ちる。
ゆっくりと涙はナース服をすべっていった。
 
『いっそ殺してよ!』
 
パシっ
 
『――ちゃん?』
 
その音はクーが女性の頬を軽く叩いた音だった。
 
『あなたは救えなかった、と言った。だけど』
 
クーはバサバサとカルテを机の上から下ろしていく。
 
『助けられた人もこんなにいるじゃないですか』
『――ちゃん…でも』
 
そしてカルテの上からさらに本が置かれた。
 
外科げかはこれ、内科はこれ。それと』
『えっ?ちょ、ちょっと待って』
 
女性は慌ててカルテをまとめる。
 
『具体的な治療法で、治せるイメージも強くなるんじゃないですか?』
『!』
『まだ出来ることはあります、だから…』
 
女性がクーを抱き寄せる。
 
『ありがとう』
 
その顔にはもう悲壮感ひそうかんは残っていなかった――。
 
 
 次:https://note.com/hanasoraen/n/n5679a0678745
 
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イラスト:https://twitter.com/ano_ko
 

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