![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/139220392/rectangle_large_type_2_86057c8ff34e17851d8c7f8931f7948f.jpeg?width=800)
9 万能じゃない
「…」
クーは机に向かい、本をめくっていた。
クーとカズーの2人は商店に戻っていた。
わずかにある窓からはオレンジ色の光が差し込み、夕方だということが分かる。
「くーさん、ちょっと休んだら?」
カズーがクーの横にマテ茶のボトルを置く。
「ああ、ありがとう。こんな時にネットが通じていればな」
「天災以降、インターネットはほぼ使えなくなっちゃったもんね」
クーの机には本とメモ帳が置いてあった。
「一応歌や音楽にまつわる伝承を書き出してみたが」
「『小豆洗い』、『ハルピュイア』、『セイレーン』…なんかしっくり来ないね」
「そうなんだよ…だが都市伝説レベルのものはキリがない」
マテ茶を飲みながらクーがため息をついた。
その時、ゴトリと音がした。
「あ、ごめん…車椅子ひっかけちゃった」
カズーが工具を床から拾い上げる。
「…キミは、何故天災で障がいを無くして欲しいと願わなかったんだ?」
「え?とっさのことで思いつかなかったからだよ」
「だからといって、車椅子がちょっとだけ浮く能力なんてなぁ」
「ただ、障がいを無くすなんて、大きすぎる願いだから…」
一拍、クーが宙を見て止まる。
ふうっと息をついて、クーがマテ茶のボトルを作業台に置いた。
「私たちは能力も魔法でさえも、万能なわけがないことをあの日知った…」
夕焼けが闇に染まりつつあるように、沈黙が部屋を満たす。
「あの日は大変だったね」
「…そうだな」
![](https://assets.st-note.com/img/1714864856160-UJgkLP3rIs.jpg?width=800)
次:https://note.com/hanasoraen/n/n8d3b312c76b8
#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門
イラスト:https://twitter.com/ano_ko
よろしければ推してください!