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9 万能じゃない

 「…」
 
クーは机に向かい、本をめくっていた。
クーとカズーの2人は商店に戻っていた。
わずかにある窓からはオレンジ色の光が差し込み、夕方だということが分かる。
 
「くーさん、ちょっと休んだら?」
 
カズーがクーの横にマテ茶のボトルを置く。
 
「ああ、ありがとう。こんな時にネットが通じていればな」
「天災以降、インターネットはほぼ使えなくなっちゃったもんね」
 
クーの机には本とメモ帳が置いてあった。
 
「一応歌や音楽にまつわる伝承を書き出してみたが」
「『小豆あずき洗い』、『ハルピュイア』、『セイレーン』…なんかしっくり来ないね」
「そうなんだよ…だが都市伝説レベルのものはキリがない」
 
マテ茶を飲みながらクーがため息をついた。
その時、ゴトリと音がした。
 
「あ、ごめん…車椅子くるまいすひっかけちゃった」
 
カズーが工具を床から拾い上げる。
 
「…キミは、何故天災で障がいを無くして欲しいとねがわなかったんだ?」
「え?とっさのことで思いつかなかったからだよ」
「だからといって、車椅子くるまいすがちょっとだけ浮く能力なんてなぁ」
「ただ、障がいを無くすなんて、大きすぎる願いだから…」
 
一拍、クーが宙を見て止まる。
ふうっと息をついて、クーがマテ茶のボトルを作業台に置いた。
 
「私たちは能力も魔法でさえも、万能なわけがないことをあの日知った…」
 
夕焼けが闇に染まりつつあるように、沈黙ちんもくが部屋を満たす。
 
「あの日は大変だったね」
「…そうだな」
 
 


 
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イラスト:https://twitter.com/ano_ko

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