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ふつうのかあちゃんが博士課程に進むまで⑧

 仕事なし、結婚なし、26歳になったかあちゃんは、

 日本にいたくない、とイギリスに逃げた。

 ちょうど、イギリスの日本人学校で、
 社会科を教えられる人を募集していて、

 とりあえず、免許のある私は、無事採用され、
 わずか3か月だったが、イギリスに住むことになる。

 英語は、全く話せないが、
 まずは

 日本脱出

 が、目的だったから、

 それさえ、叶えば、どこでもいい、
 まあ、シャーロックホームズの国なら、
 なお、素晴らしいと、

 すぐに旅立った。

 仕事は暇で、私は、イギリスを満喫しまくった。
 ありとあらゆるところに出かけて、
 ピーターラビットも、アフタヌーンティーも、
アガサクリスティも、ハロッズも、大英博物館も、

 味わってきた。

 日本では、ナイナイづくしの私でも、
 イギリスは、受け止めてくれた。

 伝統、クール、私の好きなもので溢れた国で日々を過ごすことで、
 自分のエネルギーが回復していくのもわかった。

 小学生の頃に、ジェレミーブレッドが演じたシャーロックホームズのドラマをNHKで見るのが、
 土曜日夜の楽しみだった。

 四つの署名を見て、怖くて眠れなくもなった。

 私の好きなことの原点に、イギリスはある。

 自分が好きなものに触れ合い、ようやく
 落ち着いたときに

 友達からメールで

 自分の結婚式の写真が送られてきた。

 な、なんじゃこりゃあ。

 イギリスの夢から一気に覚めた。

 私は、結婚というシステムから
 こぼれ落ちた存在だということを思い出した。

 イギリスにいても、日本のシステムからは逃れられなかった。

 私は、また、迷い始める。

 結婚しなければ、
 どこまでもこれが追いかけてくるのだ、と。

 結婚を手に入れない限り、私は、システムエラーの存在になってしまう。
結婚しない限り、私は、自分を保てない。

 日本に戻り行ったのが、また、婚活であった。

 どこまでも追いかけてくるなら、
 もう受け止めるしかない。

 いったい、いつ、かあちゃんは博士課程に進むのだろうか。
 27歳の頃であった。

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