読むコント➊「アナウンス」
カップ麺を手に盗る。
間違えた、手に取る。
そしてカップ麺をカゴに入れた。
ピーンポーンパーンポーン
「迷子のお知らせです。
林田、涼くん。林田涼くん5歳がご家族の方
を探しています。ご家族の方いらっしゃいま
したら、レジ横のイートインまでお越しくだ
さい。」
ピーンポーンパーンポーン
田中は顔を上げる。それから、周りをチラチラと見回すと小さく口を開く。
「ここ、コンビニだよなぁ?」
田中はわかめのカップ麺をカゴに入れた。
くるりと振り返り酒のあてを探す。
たこわさに燻しチーズ、ホタテ。枝豆か?いや、それではあまりに普遍のそれだ。情緒がない。
田中はスルメをとった。
ピーンポーンパーンポーン
またアナウンス。
ピーンポーンパーンポーン
「何にもないんかい。」
心の中で言った。心の中で。
田中はアイスを眺めている。最近は種類が増えて選ぶのも骨が折れる。でも、アイスは田中が一番に好む食べ物だから多少の骨折は大目に見る。
今日はシャーベットにする。
ピーンポーンパーンポーン
「モナカ、オススメですよ。」
ごくごく小さな声が、田中の耳を撫でる。
アイスの冷気か?いや、どこからか見られているかもしれないという恐怖だ。背中が痺れる。
ピーンポーンパーンポーン
モナカにした。
モナカが食べたくなった。
よくよく考えてみたらアナウンスの声がタイプの女性に似ていたとかではない。
モナカが食べたくなっただけだ。
モナカをカゴに入れた。
レジでは林田涼くんだと思われる子供と、その母親がカゴを持って並んでいた。
カゴいっぱいに入った商品を見て。
「ここ、コンビニだよなぁ?」
声に出して言った。声に出して。
まずっ。
一瞬ヒヤッとしたが、林田涼くんがこちらに振り向いただけで気づかれてはいなそうだった。
会計を済ませる。
「ありがとうございましたー。
またお越しくださいね。」
嫌でもまたくるだろ。
ここ、コンビニだよなぁ?
今度はきちんと心の中で言った。
店を出……
スカジャンの男に腕を掴まれる。
「なんすか…」
「内ポケットのスルメ。出しな?」
Gメン。
「ここ、コンビニだよなぁ…」
読んで頂いた方ありがとうございます。
息抜きでやっていきたいです。
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