見出し画像

IR担当の業務を解説

当社は現在上場していないので、IRという業務がありません。
未上場ベンチャーで、IR業務がどんなものか想像がつかないまま上場を目指している方も多いと思うので、ざっくりIRの業務を説明していきます。

私のIR経験

私自身は、前職時代に2008年から2018年まで東証一部上場ITベンチャーでCFO直下のIR主担当(途中2~3年隣の部署に異動したりしましたが)として、時価総額800億から5,000億になるまで、IRという立場で会社を見てきました。

IRの業務

IR担当の業務はざっくり以下のとおり。
決算を基準として繁閑がはっきりしています。
この点は、IRと類似するPR業務と大きく異なる特徴です。

  1. 決算説明資料を作成・公開する(決算発表日)

  2. 決算説明会を開催する(決算発表日あるいは翌日)

  3. 機関投資家・セルサイドアナリストとの面談をセッティングする(決算発表後約1カ月半の間)

  4. 個人投資家向けIR活動

  5. その他

決算説明資料の作成・公開

いわゆる決算発表とは、経理が作成する決算短信を公開することをいいますが、その際IR担当が作成する決算説明資料も併せて公開することが一般的です。
決算説明資料の作成は、上場企業の義務ではありませんが、決算の内容を投資者にわかりやすく伝達するものとして東証が推奨しており、ほぼ全ての上場企業が作成しています。
多くの会社は、決算短信と同様の扱いとして、会社HPに加えて東証のTDnetシステム上で決算説明資料を公開します。
TDnetに公開することで、インサイダー取引規制上の「公表」になるため、決算短信に記載していない重要情報を決算説明資料に記載していた場合でも問題にならないようにするためですが、加えてTDnetに載せるとブルームバーグなどに自動連携され、国内外の投資家に情報を届けることができます。

決算説明資料は、投資家への補足情報として作成するものですが、その作成の過程をとおして、会社内部における決算に関する見解のすり合わせ・今後の戦略をどのように説明していくかの方針のすり合わせが行われる点で重要な役割を果たします。
決算説明資料を作成するにあたっては、IR担当者が事業責任者らにインタビューを行い、これと決算情報及び経営会議の報告内容などをもとに原案を作り、社長及びCFOと協議して完成させます。

決算説明会の開催

決算発表後すみやかに、機関投資家・アナリスト向けの決算説明会を開催します。決算説明資料同様に、義務ではないものの、決算の内容を投資者にわかりやすく伝達するために東証が開催を推奨しているものです。

基本的な流れとしては、社長あるいはCFOが決算説明資料を使って決算の内容を説明し、その後質疑となります。
質問するのは基本的にセルサイドアナリストのみであり、セルサイドアナリストが集客できなかった場合は、質問がゼロになってしまいます。

ところで決算説明会は、会場の制約や安定運営のため、機関投資家・アナリストと一部の報道関係者のみを招待して開催される場合がほとんどです。
しかし、IRの原則としては、情報の非対称性は極力排除し、すべての投資家(潜在株主)に等しく情報を届ける努力をしなくてはなりません。
そこで、決算説明会のライブ配信、収録動画の公開、質疑の文字起こしなどで個人株主にも情報を公開する方法を検討することもIRの業務です。

機関投資家・セルサイドアナリストとの面談

決算説明会が終わると、機関投資家・セルサイドアナリストとの個別面談を設定していきます。
機関投資家は、公開の決算説明会では基本的に質問しませんので、クローズドな個別面談で、株主から初めて決算について質問を受けることとなります。

機関投資家・セルサイドアナリストとの個別面談は、決算発表後、サイレント期間に入るまでの約1カ月半~2か月の間で行います。
サイレント期間とは、会社が投資家との個別面談を行わない期間として自主的に定めるもので、決算期日の1週間前から決算発表日までなどと定めて、会社HP等で公表します。翌決算の情報を会社が持った状態で投資家と面談してしまうと、公開前であるはずの決算情報が漏洩してしまうリスクがあるため、これを防ぐことが目的です。

なお、機関投資家・セルサイドアナリストとの面談は、証券会社が主催するカンファレンス(多数の投資家と発行体企業を一気に集めて面談をセットするイベント)に参加する方法で行う場合もあります。あるいは、海外投資家を訪問する海外ロードショーで面談をセットする場合もあります。
いずれも、通常ではなかなか個別面談が入らない海外投資家との面談が組みやすいなどの期待ができます。
これらも基本的にはサイレント期間外で行うことが好ましいのですが、スケジュールの関係でサイレント期間内となってしまう場合があります。
これを許容するかは会社の考え方次第ですが、普段なかなか会えない投資家との面談では、直近決算の話題になることは想定しずらく、会社の事業説明や長期的なビジョンの話題が中心という前提で、サイレント期間内での開催も許容されています。とはいえ、決算発表の一週間以内などギリギリのタイミングでは避けるべきでしょう。

さて、面談に対応するのは、社長やCFOが中心だと思われますが、会社の方針で事業責任者やIR担当者が対応する場合もあるでしょう。
IRの機能として、会社の戦略・方針を投資家に伝えることと同時に、投資家が会社に対してどのような期待を持っているのかを役員・事業責任者に伝えることがあります。いずれにとっても、投資家との直接面談は重要な機会となります。
そのため、面談をどのようにセッティングするのかはIRの重要なテーマの一つです。
例えば、長期投資のファンドを運用する機関投資家のファンドマネージャーの場合、会社の長期ビジョンについての議論を求めており、社長との面談をセットしたいところです。一方同じ機関投資家でもバイサイドアナリストの場合は、より詳細な事業モデルの説明を求めている場合があり、CFOやIR担当のほうが面談者として相応しいかもしれません。

個人投資家向けIR

IR業務は機関投資家・アナリスト対応の割合が多いのですが、個人投資家向けIRも重要な業務です。
機関投資家は株価が上昇基調のときに、個人投資家は下降基調のときに買いを入れる傾向があるので、個人投資家向けIRを充実させることで株価の下支えが期待できますし、特にConsumer向けの事業を持つ企業は、ユーザーが株主としても会社を応援してくれる関係を作ることができます。

個人投資家向けIRとしては、個人投資家向け説明会の開催、会社HPやその他IRメディアでの動画等の公開、証券会社のリテール営業向け説明会などがあります。

その他

会社によって取り扱いが異なると思いますが、上記の他には、決算短信等の業績・予想説明パートの作成、アニュアルレポート作成、決算以外の適時開示を行う場合はその作成と公開などもIRが担当している場合があります。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?