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ささやかすぎる思い出を抱えて生きている

今やおじさんしか好きになれない私が、生まれて初めておじさんを好きになった時の思い出話を以前書いた。
一度も話したことがないにもかかわらず、いきなり告白したのだ。
30歳以上年の離れた人に。

全体的に「‥‥子供だったな、私」という話なのだが、この中で書ききれなかったことを書いてしまいたい。
人様にとっては心の底からどうでもいいことだとは思うのだが、自分を癒すため&自分の記録のためなのでスッと流して頂ければ幸いです。



一つめは、彼に告白した後「どうにか私のこと好きになってくれないかな」「一度でいいから抱いてくれないかな」と思って、会うたびアピールしていた頃の話だ。
しかし私がいくらがんばっても彼は「わかったわかった」と私の頭をぽんぽん叩いたり、ちょっと腕を組ませてくれたりするぐらいがせいぜいだった。


そんなある日、
「あなた、あんまり思い詰めない方がいいよ。たまに飲むぐらいならいいけどさ、個人的にどうこうっていうのは‥‥まずいと思うわけよ」
と言われてしまった。
そこそこはっきりした台詞でフラれたため私は悲しくなってしまい、
「‥それは‥‥私だから駄目っていう‥‥」
と聞きながら語尾が消え入ってしまった。
すると彼は、
「いやあなたが駄目なんて言ってないよ。そんなことは全然言ってないよ」
と言った。
それはまるで「あなた自身が嫌いなわけじゃない」と言われたようで、私の心を大変に慰めた。
私自身が駄目なのではなくて、たとえば年が離れすぎているからとか、これ以上身辺がややこしくなったら困るから(←これは実際に言われた)とか、別の理由を想像させる余地を残してくれたように感じて、とても嬉しかった。



その余地を感じてしまったせいか、その後も彼への想いはなかなか消えなかった。
また彼の方にも、謎のめげなさを持って自分のことを好きだと言う私に対して「変わった女だ」ぐらいに面白がってくれている雰囲気だけはずっとあった。


彼と最後に会ったのはそんな頃だった。
その時彼は、彼の会社の人と一緒に歩いていたのだが、私は彼を見かけるのが数ヶ月ぶりだったので思い切って声をかけた。
「Kさん!」
彼は首をちょっと引くようにしてこっちを見た。
たぶん私の目からは相変わらずハートマークがあふれていたのだろう、彼は、
「何あなた、まだおれのこと忘れられないの?」
と、わりと真顔で言った。
「好きすぎて泣きそうです」
私が間髪入れずに言うと、彼はいつものように眉根を寄せて困ったような顔で笑い、
「まあ、また会おうよ」
と言った。


すれ違いざまそんな会話をしただけで別れた。
私は帰り道、
── 会社の人がいる所であんな会話しちゃって大丈夫だったかな?
── でも「おれのこと忘れられないの」って言ってきたのはKさんの方だったし。
── まあ彼がああいう冗談を言う人だって周りの人もわかってるんだろうな。
── しかしとっさにあんな台詞が出るなんてKさんは憎らしいぐらい素敵な人だ。
と思いをめぐらせた。


それからしばらくして、彼は亡くなってしまった。
いわゆる突然死だ。
本当に急なことだった。
後から聞いたところでは、亡くなる前夜も親しい友人夫妻と3人で楽しそうに食事をしていたという。


彼の最後の言葉が「もういい加減おれのことあきらめなさいよ」とかじゃなくて「また会おうよ」であったことが、今でも私の心を慰めている。



もう一つ。
Kさんが亡くなった後に彼の仕事関係者の人と話した時のことだ。
その人は私がKさんを好きだったことなど全く知らないのだが、たまたま話がKさんのことに及んだので、私は何気ない風を装って
「Kさんって素敵な方でしたよね」
と言った。するとその人が、
「あなたはいかにもKの好きそうなタイプだよ」
と言ってくれたのだ。
えーーーーーーー!!!
私はあまりにも嬉しくなってしまって
「いやいや!!全然そんなことないです!!私なんてとてもとても‥‥」
と大げさなぐらい首と手を振って大急ぎで謙遜した。
(謙遜っていうか実際違ったでしょうが、という話なのだが)


しかし、少なくとも彼と親しかった人からそんな風に見えたというだけで、彼との思い出が一段明るい色になったような気がした。



‥‥なんかちょっと自慢話っぽくなっちゃったな。(どこが)
しかも書ききれなかったというよりは、書いても仕方ないことばっかりだ。
ささやかすぎる話ばっかりだ。
愛の台詞を言われたわけではないし、「また会おうよ」だってごく普通の挨拶だし、最後のエピソードに至っては伝聞‥ですらない感想というか印象だけの話だし。


でもいいのだ。
どれも私にとっては大事なことなのだ。
Kさんへの想いは何一つ叶わなかったけど、今でも暖かい気持ちで思い出せるのはこういう一つ一つの話のおかげだ。


気が滅入る時は、自分が嬉しいと思った時のことを思い出すに限る。
とっても気が紛れます。

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