『ヘレディタリー/継承』から考える「家族」と「救い」のあり方

こんにちは、花野ねもです。今回は映画『ヘレディタリー/継承』を取りあげます。
ただし映画本編の解説や考察ではなく、映画に触れて自分が考えたことをまとめたものになっております。あしからず。

■アリアスター監督の「家族」観

私が気になったのは「家族」の描き方です。
アリアスター監督の作品で出てくる家族は、今作然り、『ミッドサマー』然り、大抵不幸な結末を辿ります。

作品が発表されるたび、「監督は一体どんな体験をしてきたんだ……?」という疑問の声をいくつも耳にしますが、それはさておき。

Base Ball Bearの小出祐介さんと監督の対談にて、家族の描き方について触れている部分があります。

「アメリカのポピュラーな映画には「家族が一番。どんなにつらいことが起きても家族がいるから大丈夫。状況が悪化しても、むしろそのことによって家族がひとつになるんだ」という思想があって(笑)」
「(前略)悲しみやトラウマが人をひとつにすることはもちろんあるけど、亀裂を生じさせることだってたくさんあります。ですから、(中略)「家族が一番だよね」という、すべてが丸く収まるタイプの映画を観たときに(中略)より孤独感に苛まれる人もいるはずだと感じていました。そして実際、過去にシリアスな悲劇を経験したことのある何人かの方からは「自分の気持ちを高揚させてくれるのは『ヘレディタリー』のような映画です」という感想をもらえたんです。」
引用:「ミッドサマー」アリ・アスター×小出祐介 / 園子温インタビュー - 映画ナタリー 特集・インタビュー
https://natalie.mu/eiga/pp/midsommar

このコメントを見て思い出した作品が2つありました。

◼️「家族」という呪いについて

1つめは、吉本ばななさん作の『ハチ公の最後の恋人』。こちらは主人公の祖母が霊能者であり、祖母亡き後の教団を母が運営しているのですが、「家族」についてこんな風に書いている場面があります。

「不吉なことの中心はいつも家族にあると思います」と言ったのは、イタリアの映画監督、ダリオ・アルジェントだった。「カーテンは、母のイメージです。あたたかく包むことも、包んで窒息させることもできます。母親も同じように守ってくれることも、殺すこともできるからです。」
引用:吉本ばなな『ハチ公の最後の恋人』中央公論新社

「家族」(文中では「母」ですが)というものの2面性、難しさを端的に表しているな~と思いました。

家族という存在は生まれて初めて体験する共同体であり、逃れがたいものであり、閉鎖性の高いものだと思います。(あくまでそういう側面も持っている、という話です)

”他の家族のあり方”って、意外と知らないじゃないですか。結構仲が良い友達で、度々その子のお家に遊びに行っていたとしても、決して見えない部分というものが各家庭にあると思います。

あるいは、友達が家族のことで苦しんでいるのを知ったとしても、"よその家のことにやたらと首を突っ込んではいけない"という向きがありますし、実際問題、手助けできる範囲も限られているのが、残念ながら実情と思います。

そうした構造の中で時に生み出される悲劇や不和、絶望などについて、ハッピーエンドとして回収せずに描く、ということに監督が意義を見出し、結果として反響を呼んだのだなあと思いました。

◼️恐怖に「癒される」人々

2つめは、平山夢明さん作の『恐怖の構造』。
こちらは人が恐怖を感じる仕組みについて、自身の体験談などをもとに述べている本です。途中、ホラー好きな人とそうでない人の差を考察した箇所があります。

僕は、両者の違いは「人生がどれほど絶望的か」なのではないかと解釈しています。(中略)現実に絶望している人間にとって(中略)もっと劇的な体験のみが、現実からいっとき目を離し問題をサスペンド(保留)させてくれるんです。(中略)過剰なほど(ここが重要なのです)悲惨な人間を目撃すると、胸のつかえがちょっと楽になる。そういった効果が、恐怖にはあるのではないでしょうか。
引用:平山夢明『恐怖の構造』幻冬舎新書

アリアスター監督の作品の登場人物は皆、理不尽な形で、かなり悲惨な目にあいます。
そういったより凄惨な出来事を、映画を通して疑似的に体験することで、逆説的に今の自分の人生を肯定できる人というのが、決して少なくない人数、いるのだと思います。その人たちにとっては、この映画、そしてミッドサマーがとても「救い」になったのだろうなあ……。

◼️最後に

アリアスター監督はパーソナルな部分についての作品を作っておられる方だと思います。
また、そういった部分に共感できない方でも、様々な小道具に隠されたメッセージ性や音の効果的な使い方といった面で惹かれる方も多くおられるのでは?と思いました。
決して万人受けする映画ではないかもしれませんが、気になった方は観てみてくださいね。

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