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今でも聞こえるMちゃんの声は、私のたからもの

看護学校時代の友達のMちゃんの家では、室内でマルチーズとラサアプソを、屋外でラブラドールレトリーバーを飼っていた。

「ラサアプソ?!そんな犬の名前、初めて聞いた。どんな犬?」
初めて対面したラサアプソは、クリームに近い白色の毛は長く、クリクリとした目、コロッとした体型で、シーズーにも似ているような風貌。
「へー、ラサアプソってこんな感じの犬なんだー。」
くらいに思っていた。

Mちゃんの家にお邪魔しリビングで過ごしていると、ラサアプソが私に懐いてきてずっと側にいた。しかし私が突然立ち上がったとき、側にいたラサアプソは驚いて私のふくらはぎにガブッと噛みついた。犬に噛まれたのは初体験で、想像しているよりも痛かった。

衝撃を受けたと同時に、
「犬の前で突然動くと噛まれる」
と私の中に強くインプットされた。

飼い主のMちゃんとはたくさんの思い出がある。看護学生時代に一緒に学んだり、実習に取り組んだり、週末はみんなで遊んだり、卒業してからも交流は続いた。

Mちゃんといるととても居心地が良かった。私は看護学校の寮で生活をしていたけれど、Mちゃんは家から学校が遠くても車で通い続けた。友達みんなで集まってワイワイしながらお酒を飲んでいても、一人ウーロン茶を飲み続けていた。

看護師になってからも、夜勤専従の働き方を選んだ。Mちゃんはいつも、「こんな生活も良いよ」と楽しそうに話してくれた。でも「良いと思うからちいもそうしなよ。」とは言わなかった。

出会ったときからMちゃんは、自分に合った生活スタイルやその場の楽しみ方を自分で選んで実行していた。その上優しかった。そんなMちゃんが大好きだったし、羨ましくもあった。

私が地元を離れてからも電話で話をしたり、帰省したときには度々会ったりしていたが、そのとき私のことを「ちい」と呼ぶ声がとても心地良く優しかった。

今でもMちゃんの声を聞きたくなる。でもMちゃんはガンで亡くなってしまった。なくなる3週間前に親友と会いに行ったときも、ベッドの上でMちゃんは笑顔で迎えてくれた。身体の状態や家族のこと、Mちゃんの気持ちを話してくれた。

Mちゃんも親友も私もきっと
『泣かない』
と自分に言い聞かせていたかもしれない。

それでも話していたらほんの少し涙が出てしまうのだけれど、3人とも涙を拭って笑顔を見せた。そのときこそ笑顔で過ごしたかった。

Mちゃんが「ちい」と呼んでくれる声が今でも耳の奥で聞こえる。その声は私の宝物。



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